毒舌王子に誘惑されて
「美織さん。 今日はもう帰っていいですよ。 もし、大井アナと京堂が出てくるとしてもきっと深夜でしょうから」

さっきまでの怒りはもう感じなかった。
静かで淡々とした口調がお前は要らないと告げていた。

「な、何言ってるの。仕事なんだから、私も残るわよ」

葉月君は面倒くさそうに溜息をつくと、私のスカートを指差した。

「それ。 そんなタイトスカートじゃ仮眠も取れないでしょ。
異動早々に体調崩されたりしたら、俺が編集長に怒られますから」




サブリナ編集部では皆が褒めてくれたお気に入りのネイビーのスカートもスカートに合わせた同色のピンヒールも、やけに重く感じる。


最寄駅から自宅マンションまでの道を私はとぼとぼと歩いていた。


入社して8年、恋よりも遊びよりも仕事を最優先にしてきた。

それなのに・・

4つも歳下の葉月君の方が白英社社員としては、きっと優秀だ。

私はファッション誌しか、サブリナしか、見てなかった。

週刊誌なんてって勝手に見下して、ろくに読んでもいなかった。
週刊リアルがどんな特集を組んでるかなんて知りもしなかった。

葉月君は多分、自社の出版物はあらかた目を通しているんだろう。
じゃなかったら、サブリナの巻頭特集なんてすぐには出てこない筈だ。
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