毒舌王子に誘惑されて
「美織さんの手料理はぜひ食べてみたいですけど、後でいいです」

葉月君はにっこり笑って言った。

後って・・・何の後よ!?
とは、とてもじゃないけど聞けない。


葉月君は私の髪を一筋取ると、そっと唇を寄せる。ふわりと流れた前髪と伏せた長い睫毛が濃い影を作る。その仕草が、姿が、あまりにも綺麗で思わず見惚れてしまう。

そのまま、今度は私の手の甲にチュッと軽い音をたてて、吸いつくようなキスをする。
耳からの甘い刺激と肌に触れた唇の感触に全身の血が沸騰しそうになる。


「ーーっっ。は、葉月君。 待って、ちょっと待って」

「嫌です。 もう曖昧じゃなくなったって言ってくれたじゃないですか。
いい加減、覚悟決めてください」

熱っぽい瞳が私を見上げる。

「だって・・なんか緊張しちゃって、ドキドキしっぱなしで、何をどうしたらいいかわかんないんだもん・・」

私は泣きそうな声で訴えた。

そうだよ。手に軽くキスされただけで、こんなに心臓がバクバクしてるんだもん。これ以上なんて、絶対ムリだ・・

「いや、何かするのは俺の方なんで、
美織さんは別に何もしなくても・・」

葉月君は真顔でそんなことを言いながら、私の背中に手を回してゆっくりとソファに押し倒した。

気が付いた時には、天井を背にした葉月君の妖艶な微笑みが目の前に迫っていた。
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