毒舌王子に誘惑されて
「なに、弱気になってるの!?
週刊誌だろうが、アニメ雑誌だろうが、ちゃんと頑張ってれば絶対に見ててくれる人はいるから。
やる前からグダグダ言ってないで、一度は死ぬ気でやってみなよ。 ね?」

そう言って俺に説教した時の彼女の強い眼差しは、今でも鮮明に思い出せる。


彼女はファッション誌、俺はゴシップ週刊誌だったから仕事上の接点は全くなかった。

けれど、時折社内で見かける彼女は、いつだってピンと背筋を伸ばし、あの強気な瞳でまっすぐ前だけを見つめていた。


その姿を見るたびに、俺は密かに元気と勇気をもらっていた。



「マジ!? 別れちゃったの?
長い付き合いだし、お前らは結婚まで行くかと思ってたわ〜」

「仕事ばっかで、夜中しか会えないような男は嫌だってさ。同じ会社に新しい男が見つかったって言うし、仕方ないだろ」

見た目の印象からか軽い男だと思われがちなのが癪だけど、俺は付き合ったら結構長い方だった。
高校の時の彼女も卒業まで付き合ったし、同じ大学だった彼女とは約5年の付き合いだった。

まぁ、そのわりにはあっさりと別の男に乗り換えられた訳だけど。


「二股かぁ〜。落ち込んでる?」

「いや・・ここ半年くらいは全然会ってもなかったし、向こうの気持ちもわかるし、納得してる」

気心の知れている学生時代からの友人に強がる必要もなく、これは本心だった。
彼女に対して二股だと責める気持ちは湧かなかった。
別れを告げるタイミングが無かっただけで、とっくに終わってたんだろう。
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