吸血鬼に甘い鎖を
「…クロト兄!」


部屋を出てすぐ、
リリーナがその背中へと声を投げた。



クロトはただ立ちどまる。




「…意味を、わかって言ってるんですか!?

…【印】を結ばれるということは…


咲さんと離れ離れになってしまう
ということでもあるんですよ!?」



まるで、誰かの代わりに
思いを伝えるようだった。




…それは、ここにいない、
事情を知らない、
咲のためだったのかもしれない。





『…あいつと会ったときから、
それぐらいわかってたさ。


どうせ来ることだった。


だったら早いほうがいいだろう?』



「そうじゃありません…!!!



…約束があるからって、
あったからこそ大切にしたいって、
約束を破ってまで
好きになる人だって…!!


私はずっとそう思っていました!!



…クロト兄も、
そう思って約束をしたんじゃないんですか?」




『…咲を、悲しませたくない。

もし話したとしたって…


あいつが混乱するだけだ。


あいつは人間。
俺は吸血鬼。


同じ世界では生きられない』



どちらかひとつに身をおくしか、
方法はない。


でもきっと、
咲はそんなことを
望まないかもしれない。




「…でも…!!!」




『…リリーナ、もういいんだ』


そういって、
姿は見えなくなった。






リリーナはただ、
そこに立ち尽くしていた。
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