吸血鬼に甘い鎖を

大切に思うキモチ

連れられたのは私が借りている部屋。



クロト君は私を部屋に入れるなり
ぎゅっと抱きしめた。




「…クロト、君…?」



『…俺ばっかりだ』



「え?」


ぼそっと呟いた言葉が
よく聞こえない。



『…俺ばっかり、いい思いして…』


嬉しい気持ちを、
もらうばかりで…。




「…クロト君…」


クロト君は手を放して
私を見つめる。




紅い瞳が不安げに揺れる。




「…いいじゃん、それでも」



『はっ!?何言いだすんだよ…!?』



私は首を振って笑う。



「…私だってクロト君に
たくさんの嬉しい気持ち、もらってるよ。


クロト君が意識してなくたって
私は小さいことでだって嬉しい。


…クロト君がそこにいてくれるだけで、
十分幸せだもん」


クロト君の目が涙ににじみそうになる。



「だから自分ばっかり
いい思いしてるなんて、
思わなくていいんだよ」



クロト君は笑って
私のほほにそっとキス。



『…俺だって咲がいるだけで、
幸せだからな』




「はは。

なんかその言い方だと
何かに対抗してるみたいだよ」



『…あったりまえだっ。

咲ばっかり好きなわけじゃないって
ことだからな!』






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