恋に目覚めたシンデレラ
「美術館で見かける葵さんは本当に絵が好きなのだと解りました」
「イヤな事があっても絵を見ているうちに気持ちが落ち着いて来るんです。それに見ている間は無心になれるからつい長居してまうんです」
「絵が好きってことは葵さんも描くんですか?是非見てみたい」
「……ダメなんです。描くのは下手なんですとても見せられるものじゃないです」
「そうですか、俺も学生の頃は絵を描くのは苦手だったから同じですね」
「滉さんも絵は不得意なんですね」
「そうですね、葵さんとは似た者同士って事ですか」
どちらからともなく、顔を合わせると自然と笑顔になった。
「笑顔がいいですね……張り付けたような心にもないものなんかより葵さんのその笑顔がとても可愛い」
「訊いて良いですか、その可愛いって滉さん良く言いますよね。他の女性や子供とかにも良く掛ける言葉なんですか?挨拶変りみたいな」
「挨拶変りってなんですか……あちこちで声を掛けるとかそんな軽い事しません。葵さんの事は本当に可愛く思っているんですよ」
「でも、その可愛いって例えば父親が子供に思うと飼っているペットへの愛情とかそんな感じですよね。私のことを子供みたいって言ってたし」
「大人扱いしてほしいのならそう言ってくだされば……良いですよあなたが望むのなら」
「こ、滉さん……待って」
「待ちません」
近づく滉の顔を凝視し固まる葵
「目を閉じてくれませんか。口づけできません」
「キス……するんですか……」
「あなたが望むのなら」
「やめて……下さい。友達です私達は……」
「そうですね、俺たちはまだ友達です」
滉は葵から離れた。
「寝る時間ですね」
はっとして時間を確認すると30分はとっくに過ぎていた。
洗濯物を干さないと。
「葵さん」
急いでリビングを出ようとすると滉に呼びためられた。
「おやすみ」
「……おやすみなさい」