恋に目覚めたシンデレラ
葵が会社を出るといつもの場所に運転手の三枝は車を止めて待っていてくれた。もちろん後部座席に晃も乗っている。
「お待たせしました」
車に乗り込もうとすると「葵さんを付けて来る不審者がいましたけど心当たりは?」と晃に訊かれて一瞬ゾッとし手当たりを見回した。
「不審者ですか?」
「信号を過ぎた辺りで突っ立っている紺色のスーツのあの男性がずっとあなたの後を付けていました」
「えっ!紺色のスーツ姿……」
葵がその方向を見ると皆が信号を渡ってそれぞれの方向に歩いているのに一人だけ突っ立っている男性が……目をよく凝らして見ると。
「……矢嶋君」
その男性と視線が合い。
途端に視線をそらされた。
「どうして……」
「あの男性はやじまくんという名前ですか。知り合いなんですね?
ずっとこっちを見ているようですが接触してくる気は無いようです……葵さん乗ってください」
「あっ、はい」
「三枝、出してくれ」
滉の指示で三枝は車を発車させた。
「葵さん、さっきのやじまくんという男はどうして後を付けてきたんでしょうか?」
「どうしてなのか……私も解りません」