夢遊病
「夏穂!飯!」
昔から亭主関白の父は、呆けて主婦が務まらなくなった母の代わりに、私を主婦として怒鳴る。
それの、何と腹立たしいことか。
「夏穂!夕刊は!?」
ドカッとちゃぶ台の前に座り、命令するだけ。
…分かっている。
父の体も、もう健康では無い。
病に侵されていることも、ちゃんと分かっている。
プルルルルル…
「はい、杉山ですが。」
『夏穂か?克典だけど。』
「兄さん…どうしたの?」
『親父に替わってくれ。』
…またお金の相談、か。
「お父さん、克典兄さんから。」
受話器を渡し、夕刊を取りに行くふりをして、チラリと父を見た。
「おお、克典か!どうした?ん?…そうか、分かった。…いやいや、お前になら構わんよ!いくらでも貸してやる!」
ハァ…、私の溜め息は尽きることを知らないようだ。