藍色の瞳
「いらっしゃい
久しぶりですね。」
「…お久しぶりです…トウマさん。」
結局、私は学校に行くことをしなかった
ふらふらと私の足は繁華街を彷徨い、気が付くと『Licht』の前に来ていた
「何か飲む?」
「…アッサリしたものを」
「了解」
カウンターに立つのはあの日と同じトウマさん
まだ早い時間帯だからか、店には私以外の客はいなかった
「………」
……キャバ嬢?だったっけ?
人混みの中から聞こえた“東城 華”という名前
その場に居る皆が知ってそうな雰囲気だったから有名人だと思い、検索した
すると一番上の項目に出てきたのが【夜の女王!どんな男も一瞬で堕ちる、キャバクラ『桃愛』のNo.1キャバ嬢。東城 華】
貼り付けられた華さんの写真は、実物と同じく美しかった
あの美しい容姿で迫られたら、柊雅さんは応えるのだろうか
彼女を支えていたたくましい腕で、優しく抱いているのだろうか
『…華』
私の名前を呼んでくれた時と同じ優しく甘い声で、あの人を呼んでいるのだろうか
「……っ」
あぁ…もうやだ…
考えないようにしても、頭に浮かぶのはこんな事ばかり
小さなことでグルグル悩んで、そんな自分が嫌になって、でもやっぱり考えてしまって…
「はい、どーぞ。
落ち着くまで居ていいですよ。」
「!?
あ…ありがとうございます」
……挙句、トウマさんにも見破られ
「…おいしい」
トウマさんが出してくれた飲み物はフルーティーな味わいの柑橘系で、少しだけスッキリした
「なら、良かったです。」
優しい穏やかなトウマさんの笑顔を見て思う
…この人、理玖さんに似てるな
理由なんて何も無いけど、見ると安心する笑顔
穏やかな気持ちになった私は、ゆっくりと目を閉じる
久しぶりに人混みに来たせいで、人酔いしたのかもしれない
思うままに身体をカウンターに預けると、すぐに意識を手放してしまった