藍色の瞳
幸い、新から見えていないであろう血の伝う足を出来るだけ隠そうとゆっくり動かした
「…いっ!」
でも失敗した
「お前…まさか…」
あぁ…面倒なことになるな….
「まさか動けねぇーんじゃ…
って……は?
……え、なんでここに…」
諦めて動けないことを白状しようとしたのに、目の前の新は突然戸惑い始める
「何慌てて…」
「蜜っ」
!?
……聞き…間違えよね?
きっと空耳
だって私はこの声がこんなに慌てているのを聞いたことがない
いつも低くて冷たくて
あれ?
顔が動かない…
振り向きたいのに…
…動かないの
ねぇ…
「柊雅…さん」
口から漏れた言葉はどんなに小さなものだっただろう
そこからは一瞬だった
後ろから抱きかかえるように持ち上げられた私の身体はふわっと宙に浮いたかと思えば、一番求めていた温もりと香りに包まれる
それがどんなに私の心を満たしていくのか私自身も分からない
だけど、止まったはずの涙はまた溢れ出し
切なさか嬉しさか悲しさか愛しさか分からない感情で、胸がギューっと締め付けられる
「…お前は転ぶのが趣味みてぇーだな」
私の頭に顔を埋めているせいで曇り気味の声が耳をくすぐる
「な…なん…で…~~っ」
「受け止めてやれなくて悪かった」
……なんで、なんで、なんで?
そばにいても受け止めてくれないくせに
『触るな』って言って冷たく見下ろすくせに
「触らないでよ…っ」
悔しくて零れた言葉は柊雅さんを拒絶するものなのに、身体は反対で巻き付く腕に『離れないで』としがみつく
この人は何を考えているのだろう
拒絶するくせに甘く痺れるキスを与え
そんなキスで勘違いしそうになる私を独り、あの広い部屋に置き去りにする
「蜜」
「…ふっ…うっ…」
低いのに甘さを含んだその声でもう1度名前を呼んでほしい
何度そう思っただろう
「も…1回」
「…蜜、帰るぞ」
「…~~っ」
もう忘れようと、諦めようとしていた私の心をこんなに簡単に掻き乱す
「全て…終わらせた
今までのことは帰って話す」
「……ん」
私を横抱きにしたまま柊雅さんは立ち上がる
「新」
「…っ!
は…はい!」
今まで呆然としていた新は弾かれたように我に帰る
やっぱり知り合いだったんだね
「お前も来い」
「…承知」
私に向ける声より更にワントーン低い声で命じた柊雅さんは、視線を外すと
「えっ…」
ぐいっと私の頭を下から持ち上げ、綺麗な顔を近づけてくる