藍色の瞳
「シャワー浴びるか?」
「っ‼︎」
何気なく落とされたであろう言葉にドキリとする
そんな私の考えを読んだかのように「そういう意味じゃない…」と付け足された
「家を出る前浴びたので…大丈夫です」
「…ん」
それだけの会話をすると、背を向けて台所らしき所に向かう男の人
そういえば名前聞いてないな…
ミネラルウォーターを飲む彼は、まるで絵の中から出てきたかのように美しかった
「那夏」
再び呼ばれる名前
「……那夏じゃないです」
なんだか嫌だった
突然連れ去られ、どこか分からない所に有無を言わさず連れてきた男
名前を呼んで欲しくないと思うのが普通かもしれない
けど私は、遊び人として有名な“那夏”の名前では呼んで欲しくなかった
というより“那夏”と言う名前を知っていて欲しくなかった
「あ?」
「私は那夏じゃないです…。
佐伯 蜜です。」
しっかりと漆黒の瞳を見据えて言った
この人には、本当の名前で呼んでほしいって思ったから
「……それが本名か」
この人は頭の回転が速いんだろうな
「……蜜」
甘さを含んだ声
…自分の名前を呼ばれただけで身体が熱を帯びる
「皇 柊雅だ」
ドクッ
まただ……また危険信号が鳴っている
きっとこの人は危ない
この人のそばに居るのは危ない
頭の中ではそう思うのに、身体はピクリとも動かなかった