私たち暴走族と名乗っていいですか?(上)

「秋奈ちゃん、俺とも1本…」

「部長、こいつは俺以外とは試合しないんです」

「瞬桜、けちけちするなよ。秋奈ちゃん、1回だけ。な?頼む!」

 部長さんの言葉を遮るのは瞬。だけど、部長さんは諦めてくれない。

 嫌だ。絶対に…あの人を呼びたくないのに…。

「部長、死にますよ」

 瞬が抱きしめてくれながらも、低い声で脅すように部長さんを睨む。

 流石の部長さんも怯んで口を閉ざした。

「こいつは、剣道はやってません。ただ、剣術をかじってるんです」

「剣術…」

「はい。だから、秋は命を狙う剣を振るうんです。興味本位でやらない方がいいですよ」

 大丈夫と頭を撫でてくれる手が温かい。

 部長さんはようやく諦めたのか、苦笑を浮かべていた。

「秋奈ちゃん、1つだけ、聞いていいか?」

「…はい」

 何を聞かれるのか分からなくて冷や冷やする。じっと部長さんを見つめて言葉を待つ。

「秋奈ちゃんもしかして宮田道場のお子さん?」

「えっと…おじいちゃんが師範代です。お父さんは次男なので直系の一家ではないです」

「あぁ、なるほどなぁ。弟いないっけ?」

「中3です」

「あ、それは敵わねぇわ。俺、秋奈ちゃんの弟に多分負けてる」

「え、部長、春馬のこと知ってるんすか?」

「中学の時、小6だった奴に負けたことがあった。多分それが秋奈ちゃんの弟だ」

 部長さんの話に思わず呆然とする。

 そういえば、他の道場とやるからって連れてかれたような…。

 私は出なかったけど、春馬が来る相手全員叩きのめしたっけ…。

 懐かしいことを思いだして瞬と顔を見合わせる。

 部長さんは1人で納得して、最終的にはいいもん見れたと笑ってくれた。
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