初恋シリーズ
「ところでさ、お姉さん来てるの?」


自ら傷口に塩を塗り込んだ。


澤田は首を傾げながら考えている。


「どうだろ。あの人、気分屋だから。」


ケタケタと笑う澤田の顔が普段と同じ笑顔なのにどこか違う気がした。


目尻が垂れた優しそうな顔で遠くを見ている。


私は俯いて黙り込んでしまった。


「保奈美?」


当然のように私の名前を呼ぶ澤田の腕を掴んだ。


今にも泣き出してしまいそうだ。


「疲れた?しんどいのか?」


慌てた様子で澤田が私をのぞき込む。


私は無言で目をつぶりながら左右に首を振った。


これほど話せたことは今までにない。


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