初恋泥棒
近くて遠い
「ねえ、裕翔!朝だよっ」
ゆさゆさと肩を揺さぶる。
けれど、一向に目を覚ます気配のないこの男。
数十分も前に役目を果たしたと思われる目指し時計が、寂しげに床に横たわっている。
…このままじゃ私まで遅刻しちゃうよ。
斯くなる上は……。
「……………ひーくん。」
「うおぁっ?!その名前で呼ぶなって言ってんだろ!!」
「ひゃっ!」
うわ、耳元で呟いただけなのに、効果絶大。
だけど、この体勢はえーと……。
私、床に立ってたはずなんだけど。
どうしてベッドに組み敷かれてるのかな?
と、とりあえず…。
「おはよう。やっと起きたね」
寝起きMAXで不機嫌そうに眉を顰める裕翔。
その距離わずか20㎝から、私を見下ろしている。
「……つか何で俺の部屋にいるんだよ」
「何でって…」
頼まれたからだよ。
君のお母さんに。