初恋泥棒
その時。
「離して下さい」
聞きなれた声に顔を上げる。
と、そこには。
「ひろ」
上級生の手を払いのけて、私を隠すようにして背中に回してくれる。
「ちっ、なんだよ。もーいいよ」
上級生の人は、すぐにどこか別の場所に行ってしまった。
裕翔が助けてくれた。
嬉しくて、心臓がまだドキドキいってる。
掴まれた腕はあれほど痛かったのに、裕翔が触れたせいですっかり痛みはなくなって。
変わりにぬくもりだけが残った。
不思議だ。
裕翔はいつだって、私がピンチの時には、助けに来てくれる。
もしかしたら、裕翔が冷たくなったのだって、私の考えすぎだったのかもしれない。
お礼を言わなくちゃと、言いかけたその時。
「あ、あの、ヒロ...ありが、」
「ヒロトー!なにやってんの?早くー」
向こうにいた女の子が裕翔を呼んで、私の声は簡単にかき消されてしまった。