初恋泥棒
危うく転びそうになった私を支えてくれたのは、坂下千紘(ちひろ)くんだった。
彼も同じ班のメンバーで、田中くんと仲が良い。
班決めの時に少し話したくらいで、まだあまりよく知らないけど。
いつも賑やかな田中くんとは間逆の印象で、とてもクールな人に見える。
「あの2人は放っとけば良いよ」
「で、でももし逸れたら...」
地図に弱い私はすぐに迷子になってしまう事、間違いなしだ。
何より、弥生ちゃんがいない班だなんて、心細すぎる。
「俺が付き合う。写真、撮らなきゃなんでしょ?」
「あ、う、うん。ありがとう」
「香川と高松もあの調子だし」
香川くんと高松さんは、クラスの優等生コンビで、一つ一つの風景を見ながらメモを取って歩いていた。
なんか、この班のメンバーって、もしかして...。
「ははっ、何かまとまりないな。俺らって」
「だね」
そう言って、坂下くんが笑った。
初めて見た笑った顔は、とても可愛らしくて、少しドキッとした。
「え、何?」
「ううん。坂下くんて笑うんだなぁって」
「なにそれ。俺、サイボーグじゃないし」
「サイボーグ?」
「知らない?今やってるドラマの話」
「あはは。坂下くんて、見かけによらず面白いんだね」
なんだ。案外、普通に話せてる。
さすが、親睦を兼ねた社会見学。
こうしてどんどん友達が増えたら良いな。