夏の嵐と笑わない向日葵
「こんなに近くにいるのにさ……向日葵を遠く感じるのは、何でなんだろうな」
「え……」
それは、たった今あたしが抱いていた思いと同じだった。
嵐君も、あたしと同じように不安に思ってる?
体…物理的な距離が近くても、心が遠かったら意味ない。
こんなに、寂しい……。
「言わなきゃ分からねーとか、突き放して悪かった」
それは、縁側で嵐君があたしに言った言葉だった。
あたしは、辛そうにそう言った嵐君の腕に両手で触れた。
「違う……あたしが悪い。嵐君はいつもまっすぐに向き合ってくれてたのに、傷つきたくなくて、あたしが逃げた」
愛美さんじゃなくて、あたしの傍にいてほしい。
いつか、離れていってしまう事が悲しくて、寂しい。
だけど…全てを捨てるなんて、たくさんの人に守られて、助けられて生きてきたあたしには、出来ないのも事実。
でもね……好きなのは嵐君だよ。
東京に行っても、あたしだけを好きでいてくれたらって、願ってる。
「向日葵、俺はそれが俺を傷つける言葉でも、知りてーよ。向日葵の事なら何でも」
「嵐君………」
「知らないところで、泣かれるより良い。向日葵が一番辛い時に、俺がすぐに助けてやれないとか……その方が苦しい」
嵐君の”苦しい”は、”好き”と言われる時と同じように優しくて、愛情のこもった言葉だった。
「傍に……」
だから、話そう。
どんな言葉でも、嵐君がそれを聞きたいと言ってくれたから。
「傍にいてほしい」
「っ!!」
あたしの言葉に、嵐君が驚きに息をのんだのが分かる。
「愛美さんより、あたしを……選んで」
「なっ……それって……嫉妬…か?」
あたしは、コクリと頷く。
すると、ガバッと強く嵐君に抱き締められた。
「あんなぁ、俺だって嫉妬したぞ。あの、勝俣って奴にさ」
「え、勝俣君?」
そういえば、嵐君ちょっと怒ったような顔してたっけ。
あれって、嫉妬……だったんだ。
「勝俣君とは、あんまり話したことなかったんだけど、たまたま会って…成り行きで」
別に約束してたとか、そういうのじゃなかった。
以外とご近所さんだったのには驚いたけど。
「でも、仲良さそうだったな」
恨みがましそうな声に、あたしは慌てて話を続ける。