夏の嵐と笑わない向日葵
「そうか、もし……加島さえ良ければ、今度…」
「おーい勝俣!!女子が呼んでるぞー!」
あたしに何か言いかけた勝俣君を、別の男子生徒が呼ぶ。
あたし、邪魔になるよね。
あたしへの用事なんて、大したことじゃないだろうし…。
勝俣君があたしから少し離れた間に、あたしは鞄をもって、教室を出た。
学校を出ると、痛いくらいの日差しに照りつけられる。
額や首筋から流れる汗をタオルで拭いながら、潮風の吹く海沿いの道を歩いた。
「学校お疲れ様!」
「………」
歩いていると、いつものように、黒髪に浅黒い肌の長身の男性が手を振ってくる。
帰り道にある、田舎には似つかわしくない、カフェテラスのようなお洒落な外装をした『田中つなぐ工房』。
指輪とか、アクセサリーの手作り体験や加工、販売している工房で、こうしてここを通る度に、36歳と若い店主の田中 康一(たなか こういち)さんが爽やかに挨拶してくる。
それに無言でお辞儀を返して通りすぎるのが、あたしの日課になっている。
あたしの家は、この海沿いの道をまっすぐに進み、入りくんだ小道に入ってすぐの所にある。
そして、わが家の木造の門をくぐった。
「ただいま」
「ニャー」
門をくぐると、ノラがあたしの足元にすり寄ってくる。
ノラは、いつもあたしが学校から帰るとこうして必ず「おかえり」と声をかけてくれるのだ。
手を伸ばして、顎を撫でてあげる。
すると、ノラは気持ち良さそうに目を閉じた。
ノラの黄色のリボンは、あたしの長い黒髪を三編みにしてとめている黄色のリボンと同じ。
「ノラ、このまま向日葵畑に行こうか」
あたしは鞄を縁側に置いて、裏手にある向日葵畑へと向かう。そんなあたしの後をノラが着いてきた。