夏の嵐と笑わない向日葵
「これ、ほどくな…?」
そう言ってスッとほどかれた髪のリボン。
それを嵐君があたしに渡してくれる。
ノラとお揃いのリボン…。
ノラ、こんなものでも、ノラにここを帰る場所だって思ってほしかった。
黄色のリボンを見つめていると、髪を拭き終えた嵐君が、あたしの腕をつかんで、消毒しはじめる。
「しみるか??」
「平気……」
嵐君は優しい手つきで傷の手当てをしてくれる。
あたしは、ただそれを見つめていた。
もう、ここには帰ってこないかもしれない。
ノラは、もう…。
「ノラは……大丈夫だ」
そんな風に考えていたあたしに、嵐君は急にそう言った。
「向日葵の家族だろ、帰ってくる」
どうしてそんな風に断言できるの?
そう思うのに、嵐君があまりにも迷わずに言うから、それを信じたいと思ってしまう。
縁側で、降りやまない雨を見つめる。
「信じたいけど……あたしには、自信がない」
「自信?」
雨を見つめるあたしを、嵐君も見つめているのが分かった。それでも、あたしはただ真っ直ぐに雨を見つめる。
「今日みたいな雨の日…家の前に捨てられていたのが、ノラだったの」
あたしは、嵐君にノラとの出会いを話す。
嵐君はただ静かに、聞いてくれた。
「あの日はおばあちゃんの葬儀で、心がボロボロだったから。ノラは、お腹が空いて、命を繋げるためにあたしが必要だった……ただ、それだけ」
お互いが、生きる為に必要だった。
「それを、家族と言っていいのか…あたしには分からない。あたしにはっ…ノラを繋ぎ止める言葉をかけてもいいのか、それさえ…」
黄色のリボンを胸にギュッと抱き締める。