(短編集)ベッドサイドストーリー・2
・プラットホームの恋
・プラットホームの恋
あの人を初めて見たのは、久しぶりに上がったプラットホームだった。
いつもは原チャリで仕事へ行っている僕が、電車を使うときは滅多にない。台風で天気が荒れまくってるときとか、原チャリが故障中とか、そんなどうしようもない時くらい。
その日、電車で仕事へいく羽目になったのは、タイヤのパンクだった。道路に投げ捨ててあった曲がった釘が、信号でとまった僕の原チャリのタイヤを直撃したのだ。全く忌々しい。
だけど会社から支給されている交通費は定期券代だし、交通事故を考慮して原チャリでの出勤は認められていない。それを承知のうえでコソコソと原チャリ通勤をしていたのだから、この状況について僕が文句を言うのは間違っていた。
僕が電車をいやがるのは判ってもらえると思う。だって、ホラ。あの混雑。原チャリで一人で快適に風を切りながら進むのとはえらい違いな、あの混雑。都会の電車の乗車率は200パーセントが当たり前、そんなのが常識。電車にはそれがあるから、僕は若干イライラしていたのだ。
そんな時に、後ろ側のホームで電車を待っていた列の最後の女性と、鞄がぶつかってしまった。
こっちはこっちでずらっとホームに並んだ人の列の最後だったから、どちらが悪いわけでもない。だけど丁度イライラしていた時だったから、僕はちょっとむっとして肩越しに振り返りかけた。
するとふわりと爽やかな香りがして、僕はハッとした。
「すみません。大丈夫ですか?」