(短編集)ベッドサイドストーリー・2
一瞬呆気に取られて、それから僕はむかっ腹を立てながら後ろを振り返る。くそ、どこの誰だ、こんなタイミングでぶつかりやがって─────────
「あの、すみません。飴を飛ばしてしまって・・・」
ふんわりと、あの香りがした。
「あ」
「あ」
二人で同時に声を出す。
混雑するホームの上で、僕にぶつかった人、それは懐かしいあの人だった。
旅行鞄のような大きなキャリーケースを持っている。どうやらこれが僕の足に当たったようだった。
振り返ったままで驚く僕の顔を真正面から見て、あの人がふんわりと笑った。
「マスクでわかりませんでした。ごめんなさい、またぶつかってしまって。私ったらそそっかしいから」
「ああ・・・いえ!大丈夫、です」
ようやく声が出た。
彼女は真っ黒のダウンのコートをきていて、カジュアルな装いだった。無意識にあの人を探してはいたけれど、季節が変わっている上に着ているもので雰囲気がかなり変わる。僕のレーダーはキャッチし損ねていたらしい。
嬉しい偶然で、あの人の方からぶつかってくれたけれど。
僕はようやくちゃんと体をむきなおし、ついでに電車を待つ列から抜け出した。
チャンス到来だ!全身でそう感じていたから。
「あの、あの!」
うまく声が出ず、きょとんとしている彼女の前で咳払いをする。
落ち着け、とりあえず、聞きたいことは山ほどあるんだ。でも時間がないかもしれない。ってかこの格好は、もしかして旅行とか?
色々忙しく考えたけど、とりあえずそれを聞いた。