(短編集)ベッドサイドストーリー・2
泥水がはねてサンダル履きの素足に飛び散る。それでさえも、子供に戻ったような気分になって笑い声が出るくらい。ストッキングにヒールシューズじゃあないのだ。いいんじゃない?そんな風に思える。
バシャバシャ。音をたてて、あえて水溜りの中を歩いてみたりする。
駅前のショッピングモールにはいけやしないけれど、街道沿いにある商店街くらいならいけるのだ。気にしない。
「・・・綺麗よね」
独り言も雨の中へと吸い込まれて消えていく。
目の前に広がる田んぼや林。遠くに見えるビル群なんかはすっかり霞んでしまってぼんやりと形が見えるだけだ。
薄水色の風が、小さくて弱い水玉を飛ばしていく。水田の中には水草が揺れ、表面を叩いてはシュルリと消える。ところどころでカエルが鳴いて、あるのは自然の音ばかりだった。
雨は白いカーテンみたいに広がって、私が立つ風景を包み込んでいく。
喧騒も暴力も煩悩も、バイバイ。私の心の中は澄んで、足元が濡れ続けることも平気だった。
私はしばらく田んぼにサアサアと雨が降る光景を楽しんで、耳も頭も瞳も休ませて、それから街道に向かって歩き出す。
休日くらいしか、ちゃんとした買い物は出来ない。買い物をする時に雨にぬれるのは嬉しくないけれど、いい面もあれば悪い面もあるってのはいたって自然なことなのだから仕方がない。
ぶらぶらと歩いていた。
旧街道にポツンとある、小さな個人商店。老夫婦が長い間経営していて、駅前まで行くのが面倒くさい年配の近所の人や、私みたいな休日の昼間にふらっとくる独身者相手に商売をしているようだった。近所でとれた有機野菜の朝一なども、軒先でたまにしている。地元の住民に愛される商店ってことだ。