(短編集)ベッドサイドストーリー・2
・10:00P.M.
・10:00P.M.
久しぶりに我が社にやってきた繁忙期で、ちょっとしたプロジェクトの責任者になっていた私は、今日だけはどうしても仕方ないと腹をくくっての残業をしていた。
就業時間の6時を過ぎて部屋の中はどんどん人が減っていく。高層ビルの20階から23階のフロアーを占領しているうちの会社は、残業そのものが推奨されていない。というより、財政圧迫のためにむしろ残業は禁止されている。加えて丁度家族を作り出したばかりの若い社員が多いこともあって、8時を過ぎる頃にはほとんどの社員が帰ってしまっていた。
強烈な夕日を遮るために下ろされていたブラインドは、ついさっき帰っていった課長があげていった。一面のガラス窓の向こう側には摩天楼の夜景が広がる。
「ああ~・・・コーヒーが必要だ、今すぐ」
それもうんと濃いヤツを。
私は一人でそう呟いて、資料やら資材やらで溢れかえったデスクからヨロヨロと立ち上がる。最後まで残ってくれていた部下の新条君が置いて行った大量の資料コピーに埋もれて死ぬかと思うほどだった。
息が出来ないのよ、あんなにあっちゃ!
だけどそれは勿論新条君が悪いわけではない。今31歳になる新条君は転職組でこの会社に入ってきたはりきりボーイ(ボーイではないか、いい年の男性よね)で、確か去年娘さんが生まれたのだった。今が可愛い盛りの娘に会いたくて、彼はいつも最初に退社している。だけどプロジェクトも楽しんでいるようで、これが始まってからは何かと残っていたのだけれど、今日はもういいよと帰したのだ。