(短編集)ベッドサイドストーリー・2
あ、そういえば。
その新条君が資料とともに置いていってくれたものがあったはず!
私はいそいそと散らかったデスクの上を探り出す。ええと、確かこの辺りに――――――――
「あった」
取り出したのはチョコレートの箱。女性には、コーヒーとこれの相性がいいんでしょ?妻がそう言ってましたよ、と笑いながら、新条君が置いていってくれたものだった。
・・・気が利くな。きっと彼はいいダンナさんでもあるのだろう。
私はチョコの箱をそっとパソコンのキーボードの上におくと、給湯室へとむかって歩き出す。ぐるりと見回した限りでは、この22階の企画室に残っているのは私だけらしい。隣にある営業室は恐らくまだ誰かはいるだろうし、23階の重役室にももしかしたら誰かは残っているかも。凝り固まった首をまわして音を立てながら廊下を歩く。ここの廊下にはカーペットが引きつめてあって、ヒールをはいた足に優しい。だけど、足音がしないために出会い頭で誰かにぶつかりかけて驚くこともよくあった。
そういうわけで、私は角を曲がるときにはちょっと慎重になる。誰もいないだろうってわかっていても、一応、念のため・・・。
と、角を曲がったその先に人影を発見した。
「あ、まだ残ってたんですか?」
「あー、お疲れ様、牧野さん」
給湯室の手前、自動販売機が置いてあるところの喫煙コーナーで、営業部の牧野さんがタバコを吸っていた。壁にだらりともたれていたのをパッと姿勢を正したのは、きっと私が年上だからだろう。一つしか違わないのに、まったく今時珍しく律儀なことだわ。私はそう思って苦笑した。