(短編集)ベッドサイドストーリー・2
「そうなの、珍しく企画部の繁忙期到来でね~」
「ああ、置田部長がとってきたアレですか?そりゃ大変ですね」
うちの会社の名物部長である置田部長、外見も性格もクマのようなその人がもぎ取ってきた巨大なプロジェクトなのだ。それはうちの企画部だけではなく、勿論会社全体を巻き込んだものなのだけれども、今は計画を煮詰める段階。なので繁忙期はうちだけってことになる。
それにしても、と私はちらりと牧野さんを盗み見た。この人、相変わらずいいお声。特別特徴があるわけではないのだけれど、トーンがいいというか、発音がハッキリしているのに柔らかい印象を残す話方をするのだ。一度それで牧野は営業部への配属になったと聞いたことがあるくらい、彼の声は心地よい。きっとしっかりと営業でも成果を出しているのだろう。年齢のわりには安くないスーツを着ている。
「そう。でもこっちが終われば営業部にも影響いくよ~。販売部がどう動くかによるけどさ」
悪い顔をして私がそういうと、それは仕方ないっすね、と呟くように言って彼は肩を竦めた。
じゃあお疲れ様、そう挨拶して私はコーヒーを淹れに給湯室へ。
ドアがしまる前に、牧野さんのお疲れ様です、という声が空気と一緒に入ってきた。
私はしばらくその声の余韻に浸ってしまった。
うーん・・・いい声だ。耳から栄養注入だね、ほんと。