(短編集)ベッドサイドストーリー・2
今年で34歳。そろそろ実家の両親も将来のことに口を出してきそうな雰囲気で、それが鬱陶しくて、正月も多忙を理由に帰省しなかった。
整理の手をとめて、ほっと息をついた。
仕事の充実の代わりに、私が手放したものは――――――――・・・
その時、広い企画部の入口近くにつけられた壁時計が、カチリと音をたてる。
私はハッとして振り返って時計を見上げる。
10時だ。
これ以上は、残業代が出ないばかりか叱責の対象になる。明日出勤してきたら、朝日の中で総務の子に叱られるなんて御免だ。
「帰りましょ、っと・・・」
止めてしまった手を慌てて動かして、私はざっと周囲を綺麗にする。それから机の下の暗がりで迷子になっていたパンプスをひっつかむと、もうエレベーターまでは履かずに歩いてやれ、と鞄と一緒に持って歩き出した。
私のデスクランプを消して非常灯だけになった部屋のドアをしめて、ロックする。それからタイムレコーダーを雑に押して、絨毯の感触に足を喜ばせながら、エレベーターホールに向かって歩いていく。
ああ、足の裏が気持ちいい~。そういえばマッサージもずっといってないかも。今度の休みには、足裏のマッサージにでも行こうかな・・・。
そんなことを考えながら、角を曲がった。
そこにはビルの共有エレベーターが6基並ぶホールと、都会の夜景を見渡せる一面の窓―――――――――――それと、人影。
え?
私はつい立ち止まる。
もう4基しか動いていないエレベーターの低い振動音が聞こえる。そこの暗いホールの中、壁一面の窓際で床に座り込む人影を発見したのだ。