(短編集)ベッドサイドストーリー・2
あなたなんてツマミ食いよ。ちょっとした息抜き程度の女のくせに。
それを日本語で負け犬の遠吠えって言うんですよ、知ってました?
彼は私と旅行の予定があるのよ。
私とだってありますよ。来月に、温泉に。それからテーマパークで遊ぼうって。
それは中旬の話?出張だって言ってたのに・・・。それでもこっちは記念旅行なのよ。私から言い出したことではないし、ユージは私と別れる気はないはずよ。
記念旅行?そんな・・・。そもそも長いことフリーなんだって、祐司君は言っていたのに!
怒りが激しくて何かにあたりたい。だけど雅美はぐっと自分を抑えていた。だってここは初めて会った年下の女の部屋。そこで暴れることがどれだけ非難されるべきことなのかは、長い社会人の生活の中で痛いほどに判っていた。
握り締めた手のひらに、長い付け爪が食い込んで血が滲んでいる。人差し指のチップは欠けてしまっているのだろう。昨日つけてもらったばかりだというのに!
目の前の女もようやく激しい怒りの中でも少しばかり冷静に頭を動かしつつあるようだった。
ふう、と息をはいて類は唐突に、一度ぐるんと両腕を回す。それから冷たい目でちらりと雅美を見上げ、言った。
「とにかくコーヒーでもどうですか?話は長引きそうだし、立ってるのも疲れたので」
「ありがとう、頂くわ。ええと・・・それに、予定は大丈夫なの?予告もなしにきたから、その、あなたの今日の予定は大丈夫?」