(短編集)ベッドサイドストーリー・2
「古内さん」
牧野さんの声が聞こえて、ハッとする。
「え?」
慌てて隣を見ると、苦笑したような彼がいた。
「ぼーっと見てますね。夜景、確かに綺麗ですけど、そんなに見惚れるほどですか?それともすごく疲れてます?」
「ああ、いや、その・・・」
ちょっと恥かしくなって私は口ごもる。外の明りで牧野さんの顔がぼんやりと浮かび上がっている。いつもはきっちりと後へ梳かしてある前髪が、一房落ちて額にかかっている。ちょっと垂れ気味の二重の瞳。大きな口元。顎の形から見て、頑固者かもしれない。私は目を瞬いた。急に気がついたのだ。この人よく見れば、結構いい男じゃないの、って。イケメンっていっていいと思うよ、うん。一本芯がありそうな顔をしている。
こんなにマジマジと彼の顔を見たのは初めてかもしれない。そう思うと同時に、自分が同僚の顔を遠慮なしにじいっと見ていることに気がついた。
「あ、御免なさい。つい凝視してしまって」
目をそらしてそういうと、いいですよ、とあっさりした返事がかえってきた。
「こんな顔してるんだーとか、思ってたんでしょう。よく言われるんです。声ばかり気になって、牧野の顔はよくみてなかった、とかね。酷いときには、お前と話すのは電話の時だけでいい、とか言われます」
「う」
あまりにも図星で喉がなるかと思ってしまった。そんなことないよ、と言うのも今更すぎる気がして、私は仕方なく正直に言うことにする。