(短編集)ベッドサイドストーリー・2
「ほんと、ごめんね。まさしくそう思ってたの。よく考えたらどんなお顔してたかなって。だって普段会うことってないし、牧野さん本当にいい声だから。電話で聞いたら確かに嬉しいかもね。うわ~ってなるかも」
言い出したらつい前のめりになって、一生懸命喋っていた。
「どうも」
「でも声だけじゃないよ、勿論。目の形も綺麗だし、整ってるというか何と言うか、ほら、男っぽいんだよね」
「・・・どうも」
「それに」
そこで彼が、ぱっと手をあげた。
「古内さん、もういいです。照れるから、やめてください」
何と本当に照れているようだった。薄明かりの中で彼は口元を片手で覆って顔をそらしている。ハッキリと明りがついていたならば、赤面しているのが見えたかもしれない。
へえ~!私は驚いて、つい顔がほころんだ。・・・照れたり、するんだ。この人ってもっとドライな感じだと思っていた。
ちょっと意外で面白くて、私は更に前のめりになって距離をつめる。普段そんなに会話することのない他部署の男の人に俄然興味を持ってしまった。こんなこと珍しい。
「牧野さんて、純粋なんだね~!うわー、ちょっと驚いてしまった!」
「そりゃ照れますよ。褒められ慣れてませんから。今は彼女なんて存在もないし、女性にダイレクトに褒められることなんてありませんもん」
え、そうなんだ。それは心の中で呟いた。
容姿も並以上、仕事も出来る上に神の声(それは言いすぎかな)を持っているこの人には、当然彼女がいるんだろうって思っていた。独身なのは知っていたけれど、年齢から考えて結婚を約束している人はいるんだろうなって、私は勝手に思っていたのだけれど、どうやら違ったらしい。