(短編集)ベッドサイドストーリー・2


「へえ、これまた意外ー!牧野さんてもてそうなのに。もしかして何か理由があって彼女を作らないとか?」

 ついそう聞くと、彼はちらりとこっちを見た。

「理由?」

「そうそう。ほら、今は仕事に集中したい、とかさ。あるでしょ?多分男性はそういうのが多いと思うんだよね。彼女がいたら面倒くさい時期とかさ」

「・・・古内さんは?」

「え?」

 彼は口元から手をおろして、真っ直ぐに体を私へ向けた。

「私・・・俺は、たまたまです。そこまで好きになる人がいなかっただけ。付き合った人はいますけど、タイミングが色々と悪くてうまくいきませんでした。でも古内さんは?古内さんは独身ですよね?理由があってそうなんですか?」

 昼間に聞いたら怒ったかもしれない。そんな不躾な、前に褒め言葉すらなしの遠慮ない質問だった。だけど今は誰も人がいない電気の消えた会社のエレベーターホール前の、それも床の上。パンプスもそばに転がして絨毯の上に座り込んでいる私は、やたらと静かな、穏やかな気持ちだったのだ。

 もの凄く、牧野さんと気持ち近かったのかもしれない。

 この空間を共有しているという意識というか、そういうものが確かに存在したのだ。

 だから私は正直に答えた。ちっともイライラせずに。

「仕事が楽しかったの。一生懸命目の前の仕事を片付けているうちに・・・この歳になっちゃって」

 牧野さんが頷く。

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