(短編集)ベッドサイドストーリー・2
声が聞きたくて。思いは胸に閉じ込めたはずだったから、言葉は慎重に選んでいた。もし何かの拍子に彼女がそばにいて聴かれてしまっても、大丈夫なように、って。
だけど本当は、こんな世間話でも問題は問題なのだろう。
知っているけれど、彼が何も言わないことに甘えてあたしは、やっぱり電話をする。
疲れた夜、不安な夜、嫌なことがあった夜も。
ハロー、戦友。そう呼んで、彼に電話をする。そして声を聞いてほっとするのだ。もう大丈夫、また頑張れるって。
自分に課しているのは、寂しい夜や嬉しいことがあった夜は電話はしないってこと。だって、ぽろりと言ってしまいそうだから。
あなたが好きだと、言ってしまいそうだから。
え?ごめんなさい、ちょっと聞こえなかった。何て言ったの?・・・あ、誰か来たみたい?そう。・・・じゃあありがとう、切るね、夜分にごめんなさい。え、大丈夫?だって――――――・・・
うわ、早かったね戻ってくるの。ああ、メール便だったんだ。彼女さんが来たのかと思って慌てちゃった。邪魔になったらすぐに言ってよね、一瞬で消えるから、あたし。
胸が痛い。ぐっとしめつけるような感覚に、あたしは目を閉じる。泣いたらダメよ、声になって伝わるから。そうだ、ワインを飲まなきゃ。酔っ払って、何でもないことのように笑うのよ。そろそろ切るべきなのかもしれない。彼に気づかれちゃったら――――――・・・