(短編集)ベッドサイドストーリー・2


 ようやくそこに思い至ったのだ。初めは、この女の付き合う男には自分という存在がいることだけを告げて立ち去るつもりだったのだから。まさか部屋の中へと通されて、真正面から口喧嘩をするとは思ってなかった。

 さほど売れないモデルであっても、雅美は社会人の時間管理には煩い女だった。だから気になったのだ、自分は今、この年下の女の休日の予定を狂わせている、と。

 そのくらいの年はとっていた。

 類は小さなキッチンに入っていきながら、肩をすくめた。

「大丈夫です。あと30分は余裕があるので。今日はお昼を食べにいこうって予定があったから、早めに支度していたの。正解だった」

 雅美は用心深く繰り返す。昼食の予定が?と。

 類はやかんを火にかけながらあっさりと頷くと、軽く肩をすくめて言った。

「そうですよ、噂の祐司君と。今日は私は休みだし、滅多に会えないから休日はいつもランチからのデートなんです。お洒落な店でランチをして、映画でも観て、ホテルかこの部屋へ戻るコース」

 またくらりと眩暈に襲われて、雅美はそろそろとその場にしゃがみ込む。ふわふわのカーペットはこの部屋の持ち主である彼女の好みなのだろう、イメージを強調するかのような淡いベージュのふんわりとしたカーペットだった。

 雅美はそのふわふわな感触を手で確かめながら考えた。私なら、絶対に選ばないカーペットだわ、と。私ならゴブリン織りのエキゾチックな薄い敷物をしくわ。それから、テーブルも背の高い濃い茶色の物を。出来るだけアジアンなテイストで部屋の中をまとめる。だけど彼女は・・・。


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