(短編集)ベッドサイドストーリー・2
「その時はね、まだ彼のことは全然知らなかったし、よかった、いい知り合いが出来た、ってくらいだったの」
だけど、と唯子は目に喜色を浮かべる。
日本に戻ってきたら、先に戻っていた彼から連絡があったこと。彼のお姉さんも自分の店を経営しているからと引き合わせてくれて、仕事上の悩み相談にのってくれたこと、その関係で食事をするうちに惹かれていったこと、を唯子は頬を赤らめながら話す。
「この2週間で、6回も食事をしたの!」
彼女の白い肌はうっすらと上気して、崩れかけた化粧を目立たなくしている。綺麗だわ、私はそう思って、隣で喋る女友達の姿をぼおっと見詰めていた。
彼の言葉遣い、指の長さ、さり気なく車道側を歩いてくれることや、他人に対する優しい態度。唯子が話すそれらの言葉で、好きになっていった彼の全部がありありとイメージできた。
恋に落ちた女が、そこにいた。
全身がバラ色一色で満たされているような、幸福度200パーセントの女が。
「それでね、今日、ついさっきまで!」
夢心地でどこかに向かって滔々と喋っていた唯子が私の方を見る。
「うん」
「他にも数人と飲んでたの、ワインバーで。早い時間から。仕事の話も絡んでいて、紹介しあったりして。でもその人達が帰ったあとにね、改まって、彼が言ったの。結婚を前提に、付き合いませんかって!」
「わお」
「本当にそうよね?!わお!それよ!そう思ったもの、私も!」
私ははしゃいで手を叩く彼女を見ながら頷いた。そうか、だから、結婚相手が見付かったって結論なわけね。