(短編集)ベッドサイドストーリー・2


 心が、飛んでいく。


 ほんの小さな喧嘩だった。

 付き合いが長くなるにつれ、段々少しずつ出てきた甘えと遠慮のなさが重なった結果の、どうでもいいことが大きくなってしまった喧嘩。

 たくさんの車のテールライトが連なって輝く道路で、渋滞の中、口喧嘩をした挙句、私は怒って彼の車から降りたのだ。

 追いかけてきてくれると思ってた。

 ごめん、って。焦った顔でいつものように謝ってくれて、手を引いて車へ戻れると。

 だけど彼は追いかけてはこず、私は険しい顔をしたままで長時間歩くには適さないピンヒールをはいて歩いて家まで戻ってきた。

 一度あった電話は無視した。

 次にかかってきたら、許して出ようと思って。

 だけどそれからは電話はなく、約束していた今日になっても何の音沙汰もなかった。

 彼の―――――――おおらかな笑顔を、好きになったのだった。

 いつだって笑って許してくれたから、私は安心してワガママを言えたのだ。

 目の前ではしゃぐ唯子みたいに、彼に恋をして、それだけでも楽しかった時期が、私達にもちゃんとあったのに。

 ・・・私はいつの間に、それを忘れていたんだろう?

 ぼけっとしてしまっていた。唯子が気がついて私を呼んでいるのにも反応出来なかったので、彼女は私の頭にまいたバスタオルを引っ張る。

「うわっ!」

「もう、朝美ってば!」

 バラバラと落ちてきた髪の間から見えるのは、怪訝そうな唯子の顔。


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