(短編集)ベッドサイドストーリー・2
うつろな瞳になって雅美は類の部屋の中を見回した。営業職であるのだろうと推測させるものは黒いノートパソコンとそのそばの無機質なキャビネット一つだけ。あとはとにかくカラフルで優しい家具で埋められて、類の小さな部屋はふんわりと暖かい印象に包まれていた。ぬいぐるみや水玉のカーテン、赤い時計やピンク色でハート型をしたクッション。
・・・この子と私の違い、なんだわ。
「お待たせしました」
その時、類がコーヒーをいれて運んできてくれた。雅美は機械的にありがとうと呟くと、一気に疲れた体をかき抱いた。
「・・・大丈夫ですか?」
類が目を丸くして雅美を見る。さっきまで背後に炎を背負って睨みつけていた迫力のある美人はどこへいったのだろうか、彼女は驚いて、ついそういったのだ。
雅美は顔をあげて静かに口元だけで微笑んだ。
「ええ、大丈夫」
・・・そうか、本当に終わりなのかも。私はこの若くて可愛い女の子に負けたのかも、って。
だけどこの子の前で負けを認めるなんてプライドが許さなかった。ここへは勝つつもりで乗り込んできたのだ。そんなの、ダメよ。だからだからせめて、あいつなんか私から捨ててやらなくちゃ。
今はここにいない男の、長く付き合ってきた間の笑顔や寝顔や喧嘩の時の膨れっ面などが目の前に浮かんでは落ちるように消えていく。雅美は一口コーヒーを飲むと、カップをテーブルに置きながら言った。