(短編集)ベッドサイドストーリー・2
乱れた前髪が額に落ちている。学生の時は下げていた前髪も、社会人になってから上に梳き上げていたからイメージも変わっていた。だけどこうしてみると、あのままの晃だった。
肩幅もがっしりしてきて、大人の顔になっている。だけどこの寝顔は、学生時代に飲んだ後で行ったカラオケハウスで始発電車を待っている間に寝てしまったあの時と、同じ顔だ。
急に、熱い何かがお腹の底から上がってきたのを感じた。
これは、きっと・・・あの恋心だ。
晃の寝顔から目を逸らして前をむき、私はゆっくりと深呼吸をする。
淡い恋心。手に取ればすぐに溶けてしまう淡雪みたいな、小さな小さなあの気持ち。それ以来誰かに抱くことはなかった恋心が、今刺激されて浮かびあがってきたらしい。
・・・ああ、やっぱり私、ちょっと喜んでるんだ。
晃が彼女と別れたって聞いて。
今夜はそれはちゃんと隠せてただろうか。
何もいわない晃に、私から彼女のことなど聞かない。だけど本当は、聞いて欲しかったんだろうか。いや、私が聞きたかったんだろうか。
今晩急に呼び出されてからも、話したのは懐かしいバイト時代の仲間のことと、今の仕事の話だけ。今までは必ず話題にあがっていた彼女の話は、一切なかった。
晃はフリーに。そして、私は他に好きな人もいない。
これは・・・いいってことなのかな。
あの気持ちを掘り返しても、いいってことなのかな。