(短編集)ベッドサイドストーリー・2
「冗談じゃないわ、って思ったの。カッとしてついここまで来てしまったけれど・・・私、ごめんなさい。とても迷惑で非常識な行動だったわよね。・・・どうやら本当にユージはあなたのことが好きなんでしょうね。ならもういいわ、私はあんな男いらない」
類はじっと見ていた。雅美はもう一度コーヒーを飲む。今度は叫んで干からびた喉を潤すためではなく、ちゃんと味わうために。それは深煎りのコーヒーで、大変美味しかったのだ。
これを淹れることが出来るのね、この子は。雅美はそう心の中で思う。こんな修羅場にいて、それでもこんなに美味しいコーヒーを淹れることが出来る。それって中々出来ることじゃあないわよ。少なくとも、私には出来ない───────────
前で類が肩をすくめた。それはこの部屋に雅美が入ってから何度かみた仕草で、もしかしたら緊張をとくためなのかもしれないわと今の雅美は思う。
類は類で考えていた。最初この人が玄関前に立っていたときは、まさかそんな話をされるとは思ってなかったのだ。丁度アパートの上の階が引越しをしているようだったから、その挨拶に現れた人なのだろうって思っていた。ところが、彼女はいきなり男の名前をあげて、言ったのだ。彼は、私の男なのよ、って。あなた、悪いけど騙されてるわよって。
類は負けず嫌いだった。もしかしたら自分は二股をかけられているのかもしれない、なんてこと一度も考えたことがないくらいに、彼は慎重に嘘をついていたのだ。だからそれが判ったとき、この女は真実を告げているのだろうと思った時、その場で本当は別れを決めていた。
だけどこの女にはそれを悟られたくない。そう思って、売られた喧嘩を買ったのだ。