Memorial School
「レベル10!?」
食堂に大きく響いたエイの声に、私はうどんを啜っていた顔を上げた。
その情報はS班の試験日の3日前である今日の正午、生徒の持つ携帯端末からアクセスできる学校のお知らせページに載せられていて、エイはそれをチェックしていたらしい。箸からサラダのキャベツが滑り落ちている。
「エス知ってたの?」
「う、うん……ユウさんがいるから………」
「ああそっか、ユウさんがいるなら知ってて当然だねー……」
その反応が返ってくることこそがユウさんの凄いところだ。『それ分かっちゃっていいの?』と思える程の極秘情報から生徒間の人間関係まで、あらゆる情報が完全網羅されているのが彼女の頭である。
「地上70に空上40だって。えげつないよね……私S班に上がって1,2週間しか経ってないのに。」
「ご愁傷様ー。まあエスは治癒能力持ちだから、致命傷じゃなけりゃ怪我したって何度でも復活できるし……大丈夫大丈夫!!」
なんて説得力の無い励まし方……まあ誰に何を言われようと不安は消えないだろうから同じことだけど。
話している内に気付けば麺を食べきっていて、私は残った汁を少し飲んで「ごちそうさま」と手を合わせると、エイは焦ったようにサラダの残りを掻き込んで、口をもごもごと動かしながら手を勢いよく合わせ乾いた音を鳴らした。
昼食を食べ終え再び試験会場であるグラウンドへ戻る。午前はB2の試験を見ていたけど、やはりギリギリでのノルマクリアだった。
「午後からは……B1だっけ。ノルマは6かー……私にとっては未知の……」
領域だなー、とでも続けようとしていたのだろう。しかしそれは正面から人とぶつかってしまったことによって遮られた。
「あっ、ごめんなさ……………って、エフ!!」
エイはその顔を視界に入れた途端に眉間に皺を寄せ、不快感を露にした。
「ん……?なんだ、エイじゃない。ていうか邪魔よ。」
A2班のアタッカーでステルス能力持ち、1年の中では群を抜いて(私が言うのもなんだけど)優秀な彼女の名は、エフ。
彼女はポニーテールにしても尚腰まで届く長い黒髪を靡かせて、エイを見下ろした。高飛車な彼女と純粋真っ直ぐなエイは性格的に折り合いが悪く、出会う度にこうして喧嘩になっている。
「邪魔って何!?そっちが前方不注意でぶつかってきたんだから謝るのが筋じゃないの!?」
「自分から謝ってきたくせに何言ってるの?そもそもあんたがチビなのが悪いんじゃない。」
「ひゃ…160cm越えてるからって偉そうに!」
「悔しかったらいい加減150cmまで伸ばせば?」
「伸ばそうと思って伸びるもんじゃないっての!!」
こんな不毛な言い合いをしているくらいだから実は仲良いんじゃないの?と思えてくるが、本当に彼女達は仲が悪い。それ以前にエフと仲の良い人を私は見たことがない。それは彼女が1人を好み、加えてストイックな性格が大きな原因なのかもしれない。
「……って、あんたのことなんてどうでもいいんだけど。」
「ちょっ!!」
我に返ったようにエフはこちらへ視線を寄越し、ただでさえ厳しかった表情を一段と険しくした。
「……エス、あんたS班に入ったんだってね。しかもノルマ引き上げ………A1の時でさえ役に立ってなかったあんたに到底務まるとは思えないけど。」
……強さをステータスとし、人一倍それに憧れている彼女だから、いつかは言われると思っていたことだった。
だけど図星を着かれた途端、小さくも鋭い痛みが胸を突いたのを感じた。