ある日、パパになりました。
今日娘ができました・・・・・・
2021年、日本は東京オリンピックの興行収入で1000兆円の国債を返し終わり、国家予算に空きができ、好景気となっている。そして、その余った予算である政策が打ち出された。それは《児童虐待及び育児放棄による児童の心身負傷の救済のための法律》というものだった。そして、それがニュースで発表され、世間で話題になった。この時代の社会では、幼児期に虐待等を受け、心の傷を負った子供達が大人となった時に自分自身にされた事を自分の子にしてしまうという事件が多発。そのことを改善するための法案。そのテストプレイの希望者が募集され始めていた。

俺、結城優羽(ゆうきゆう)20歳、独身、彼女無しの社会人2年目だ。ちなみに職業は作家。18歳で某文庫の大賞を受賞し、デビュー。今ではそこそこ売れてる作家の1人。そんな職業以外はどこにでもいそうな20歳。ちなみにアパートで一人暮らし。仕事場兼自宅だ。4月2日午後2時。いつもならひたすらパソコンに向かって次号の原稿を書いているはずの時間帯に何故か俺は長い黒髪をスラリと伸ばして首の後ろで結んだ少女と黒スーツにサングラスをかけた如何にができそうな女性とテーブルを挟んで向かい合っていた。
「あの〜それで、これはどういう状況何でしょう…?」
イマイチ状況の掴めない俺は恐る恐る聞いてみる。それもそのはずで原稿を書いている時にチャイムが鳴ったから出てみると「入らせてもらいます」の一言で押しかけてきたこの2人。俺にはさっぱり心当たりも面識も無いのだが。そして、今に至るわけなのだが・・・・・・、
「そうですね。では、説明させていただきます。ですが、その前に2日ほど前に手紙が届きませんでしたか?そちらがあると説明が簡単で済むのですが・・・・・」
と言われて、俺は、
「手紙ですか、ちょっと待ってください」
そう言って、ファンレターやら広告やらが適当に入れている木編みのボックスを取り出す。その中をゴソゴソ漁っていると、
「これですか?」
そう言って俺は少し怪しげな赤い封の手紙を女性に見せる。
「はい、それです。封が切られてないところを見ると中身は知らないんですね?」
そう少し見下すような呆れた様な目で俺を見る。あ、いや、そんな目で見ないでください・・・・・・。
「はい・・・・・・すいません・・・・・・」
「いえ、見ていらっしゃらないなら今から説明しますので、しっかり、聞いてくださいね」
そう言いながら、隣に置いていたカバンからファイルに入れられた書類を取り出す。
「まず、最初に今国会で新しい法案が出されたのはご存知ですか?」
「はい。あの児童虐待がどうとかっていう奴ですよね?」
知らない訳がない、最近のニュースはその法案のことで一色なんだから・・・・・・。説明は続き、
「その法案の内容はご存知ですか?」
「はい。ある程度は・・・・・・」
「知っていらっしゃるのであれば、もう分かりましたね?」
そう言われても・・・・・・さっぱり分からない・・・・・・。そして、俺はとうとう手元に置いていた手紙の封を切る事にした。
中に入っていた紙に書いてあった内容は

――結城優羽殿 貴方を一条咲様の1年間の親として育てる義務を負うことをここに示します――

とだけ・・・・・・、な、なんじゃこりゃ〜〜〜!!と叫ぶ訳にもいかず、
「は、はぁ・・・・・・でも、どうして僕が・・・・・・?」
ハッキリ言って身に覚えが無い。どうして俺なんかに、というのが正直な感想。
「えっ、貴方様は応募なさいましたよね・・・・・・?このテストプレイの応募に」
「はっ?何の話です、それ」
え。と驚きながらもポーカーフェイスを崩さずにカバンの中を探し、書類を取り出す。
「ここ、見てください」
そう言って見せられたところには俺が書いて送ったらしいハガキの写真があった。

――なんで写真で撮ってあるんだよ――

とは思いつつも口に出さずに思い出そうと頑張る。
「あっ!思い出した。その日、手元にあった懸賞を片っ端から応募したからその中に紛れてたんだ。なるほど、これで納得」
うんうん、と頷く俺を見て安心したのかまた説明が始まる。
「それでは話を戻しますね。さっきも言いましたが、私の隣にいる子、一条咲ちゃんと1年間一緒に暮らしてもらいます。生活費等は国が負いますので気にしなくていいです。では、私はこれで」
と言い終わるや否や帰ろうとするのを引き止め、
「いやいやいや、まだ聞きたいことが沢山あるんですから待ってください!」
と、必死に腕を掴んで頼むと、しょうがないですね、と言って元いた場所に座り直す。
「それで、他に聞きたいこととは?」
やばい、改めて言われるとなんて質問したらいいか考えてなかった・・・・・・・・・。と、そんなおれの心の中を読んだかのように、
「はぁ、わかりました。もう少し詳しく説明しますね」
そう言って視線を今までずっと俺と女性の会話中、本(主にラノベ)を読んでいた一条咲(さっきの紙に書いてあったから)に向ける。
「これから1年間、この子の父親として一緒に生活してもらいます。それがその手元にある文書に書いてある意味です。生活費等は政府から月に15万円出ますのでご安心を。ほら、咲ちゃん挨拶しよう?」
そう言うと少女は、神楽さんが言うなら、と言って一旦俺の方を見て、「よろしく・・・・・・お願いします」と言って、また本の方に視線を戻してしまった。
「この子は小学校1年生の時に母親から虐待、育児放棄を受け、児童相談所に保護されそのまま施設で暮らしていました。そして、今回様々な下調べから優羽様が適任だとこちらで判断しまして、今に至ると言うわけです。少しは分かりましたか?」
「なるほど、理由はある程度理解できました。そして、俺はどうすればいいんですか?」
そう、一番気になっていたとこ

――俺は一緒に暮らして何をどうすればいいのか――

やっと聞けた・・・・・・。
「特別な事はしなくていいです。ただ普通に親子として1年間暮らしてください」
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