ある日、パパになりました。
えっ、まじ?そんな事なの・・・・・・。あ、でも、普通に暮らすってどういうふうに・・・・・・と、また心の中を読まれたのか、
「今、普通って、どうやってと思いましたよね?」
えっ、な、なんでまた・・・・・・まさか顔に出ててた・・・・・・?
「ええ、出てますよ。顔に」
ひいぃ、この人やばい人だ・・・・・・。
「話が進まないので言いますけど、読心術とかじゃないので安心を。それで、優羽様が思うままにでいいです。ただ、この子、咲ちゃんは父親の不倫をきっかけに母親の虐待、育児放棄が始まり、家庭環境が最悪になった過去があります。そのことが原因で人間不信。特に大人が信じれなくなっています。だから、優羽様と過ごすことで少しでもこの子の癒しとなる事ができたら、というのが今回のテストプレイの目的です。少しは理解して頂けましたか?」
ふむ、大体話は分かってきた。
「わかりました、そういう事でしたら引き受けます」
なんで俺が選ばれたのかは分からないが選ばれたからにはやるしかない。それに、知らずに応募した責任もあるし。
「それでは、こちらの書類にサインを」
そう言ってまたカバンから書類を取り出す。いったいどれだけ入るんだ・・・・・・あのカバン。そう思いながらもサインをする。俺が書き終わると同時に、
「サインもいただきましたし、何か質問等がありましたらこちらに」
そう言って、俺の前に名刺を置く。そこには[文部省 神楽結月(かぐらゆづき)]と裏には番号とアドレスが走り書きで書いてあった。
「では、私はこれで」
と神楽さんは立ち上がり、出ていってしまった。
取り残された俺と咲。会話も無くただ沈黙が流れ始める。何か会話をしないと・・・・・・、
「ねえねえ、咲ちゃん。何の本読んでるの?」
と聞いてみる。と、咲は表紙を俺の方に見せてくる。その表紙に書いてあったタイトルは[俺に青春なんてやってくるはずがない!!]。俺のデビュー作だった・・・・・・。ついテンションが上がってしまって俺はつい自分から・・・・・・、
「その本、書いたの俺なんだ〜」
と口にしてしまう。と、それを聞いた途端、
「え!?そうなんですか!?このemeralって結城さんの事だったんですか!?」
と、さっきまでは考えられない様子でグイグイと聞いてくる咲に気押されつつも、
「う、うん。emeralって俺のペンネームだから。驚いた?」
「はい!とっても驚きました。だから、ここの部屋は作家さんの部屋みたいだったんですね、納得です」
「作家の部屋みたいって・・・・・・俺作家なのに・・・・・・あ、自己紹介がまだだったよね。結城優羽20歳です。ラノベ作家してます、これから宜しくね」
そう言うと咲は、
「あっ、では、私も。えっと、一条咲8歳です。学校は今は春休み中です。趣味は読書です」
「じゃあ、咲って、呼んでいいかな?俺のことは名字以外なら好きに呼んでいいから。あ、あとね、敬語は使わなくていいよ。これからは家族なんだから」
「えっと、じゃあ、優羽さん?お父さん?パパ?パパ!パパにします、いいですか?」
パパときたか・・・・・・えぇい、言った手前だ腹くくってやる!
「うん、いいよ。それでなんだけど、これからちょっと原稿進めないといけないんだけど、大丈夫かな?」
「はい、パパ。咲はパパの本を読んでいるので気にしないでください」
「うん、ごめんね。初日なのに構って挙げれなくて・・・・・・」
「いえいえ、気にしないでください。1人は慣れていますので・・・・・・」

そして、俺はパソコンに向かいながら原稿を進める。が、しかし、どうしてもさっきの咲の顔が頭から離れない。あのどこか少し寂しげな表情を。やっぱり1人に慣れてるって過去のことが関係してるんだろうな・・・・・・。こんなのダメだよな、よし、と考えていると、後ろから「きゅるぅぅぅ〜〜」となんとも可愛らしい音が聞こえ、後ろを向くと咲が本で顔を必死に隠している。
「咲、外に食べに行こっか。もうそろそろ、夕ご飯の時間だし、今日は咲がうちに来た記念日なんだから」
「えっ、いや、そんな・・・・・・」
と、顔を赤くして戸惑う咲を少し強引に引っ張りながら、
「いいから、いいから」
と、家を出る。

そして、俺が向かったのは、近くにあるファミレス。いや、だって、お腹空いてる子を遠くまでとか連れていけないじゃん?まあ、そんなことも考えて、結局、近場になった訳で、そこは何もいうな。飯時にも関わらず、客が少ないってことはあまり繁盛していないのかもしれない。などと、店の人から「余計なお世話だ」と言われそうなことを考えつつ、咲を連れて奥のテーブルに座る。そして、メニュー表を取り、一つを咲に渡す。
「何でも好きなもの頼んでいいよ?遠慮なんてしなくていいからね」
俺はパラパラと捲り、何となくカルボナーラにし、咲の方を見ると、パラパラと捲っているがなかなかと決められない様子でいる。
「どう、決まった?」
と、何気無しに軽く聞くと咲は少し申し訳なさそうな顔で、
「どれが美味しいのか分かんないです・・・・・・。こういう所来るの初めてだから・・・・・・」
と言われて、俺はハッとする。そうか、親に見放されていたみたいだから、そうだよな。と勝手に悟りつつ、
「そうなんだ。じゃあ、今日は無難にお子様ランチとかにしたらいいんじゃないかな?」
と、俺が言うと咲は「じゃあ、それにします」といって、俺は呼び鈴を慣らし、店員が来て、注文を取り、その後、厨房に戻っていく。店員が見えなくなると、咲が、
「パパ、ちょっと・・・・・・」
と、恐る恐る聞いてくる。俺はなんだろうと思いつつ、
「どうしたの?」
と返す。すると、咲は、
「原稿とかって、大丈夫なんですか・・・・・・?なんか、途中で放り出した感じで出てきたから・・・・・・気になってて」
と、言われて、俺はあぁそういえば、という感じで思い出す。
「そんなこと気にしてたんだ、大丈夫。大丈夫。気にしなくていいよ。どうせまだ締切は先だから」
と、笑って返すと咲はホッとした様子で表情に余裕が出てくる。俺のこと気にしててくれたんだ・・・・・・優しいんだな、この子は。その後も作家について色々聞いてくる咲を見てほんとに本が好きなんだな〜と思っていると、料理が運ばれてきた。
「カルボナーラとお子様ランチです、ごゆっくりどうぞ〜」
そして、俺と咲は食べ始める。と、ふと咲からの視線に気づく。
「どうした、咲。なんか俺の顔に付いてるか?」
「あっ、いえ・・・・・・ただ、ちょっとパパが食べてるの美味しそうに見えたから・・・・・・」
あ、なるほど、一口欲しいってやつか、これは。よし、
「じゃあ、食べてみる?」
と、ついつい聞いてしまった。それを聞いて咲は驚いたように、
「いいんですか!?でも、パパが食べる分減っちゃいますよ・・・・・・?」
「いやいや、そんなことないよ、ん、そんな事はあるか(笑)大丈夫、気にしなくていいよ」
と、俺はフォークで綺麗に巻き、咲の前に持ってくる。
「はい、あーんして」
そう言うと咲は口を開けてパクッとカルボナーラの巻かれたフォークにかぶりつき美味しそうに食べる。
「とっても美味しいです!!初めて食べました・・・・・・」
「そう、それは良かった。まぁ、作ったの俺じゃないけどね」
そう言って2人は笑い出す。

「・・・・・・ご馳走様でした・・・・・・」
ファミレスを出た後すぐに咲がそう言って、頭を下げた。
「うん、美味しかった?」
「はい、とっても美味しかったです・・・・・・その、また来たいです・・・・・・」
「そうだね、行こうね」
まあ、しょっちゅうは無理だと思うけど(笑)

その帰り道、月が雲に隠れて薄暗い道を歩いていると後ろから袖を引っ張られた。俺は何だろうと思いつつ、横に並んで歩いていた咲の方を見ると、
「パパ、今日はありがとう」
とちょうど雲が晴れ月明かりに照らされた咲の満面の笑みを俺はいつまでも忘れることはないだろう。

と、そんな決意を固めた俺は自宅の玄関の前に立っていた・・・・・・。なぜかと言うと・・・・・・出る時に部屋のすべての電気は消したはずなのに部屋に明かりが灯っている。今日は妹も来れないってメールがあったし、合鍵を持っている友達もいない。そう不思議に思いながらも玄関の戸をガチャりと開け、家の中に入るや否や俺の目に入ってきたのは、
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