ある日、パパになりました。
あ、なるほどこいつは誤解してるんだな、俺に女ができたと。いやでも、こんなに取り乱すか、普通?でも、誤解はしっかりと解かないとな・・・・・・、
「葵、言っておくが俺はまだ童貞で彼女なんていないからな?」
と俺の言葉を聞くと同時に葵の体がピタリと止まった。おっ、効果有りかな?
「えっ、じゃあ、誰の子になるの?」
「えっと、俺の娘なんだけど、まあ、養子みたいな感じな訳で・・・・・・」
そうして、俺は葵に咲が家にいた事情をすべて説明することになった。
「そういう事なら、先に言ってよね。ついつい、私が人殺しになっちゃうところだったじゃない」
うん、それは大変だな・・・・・・これから、俺がしっかりと止めてやらないとなどと考えていた時に何故か知らないが少しだけ嫌な予感がして咲の方を見るとやはり悪い予感とは当たるもので咲は部屋の隅で膝を抱えてガタガタと震えていた。それを見て俺はハッとまた悟る。咲には葵が虐待をしていた母親と被ったのかもしれない。
「おい、葵。咲が怖がってるじゃないか!!その物騒なものしまうか捨てるかどうにかしてくれ!!」
俺が少し強い口調で言うと葵は
「わかった・・・・・・」
と、渋々とまたどこかにしまう。そして、俺は咲の方に駆け寄り、頭を撫でながら、
「怖い思いさせてごめんな、咲。あいつ、葵にはしっかりと言っておくから、怖がらなくていいからな。それに、ここには俺がいるから」
と言っていると後ろから、
「・・・・・・ごめんなさい、咲ちゃん・・・・・・私のせいで・・・・・・」
今にも泣き出しそうな顔で落ち込んだ葵は咲に謝る。
「・・・・・・これからは・・・・・・しないで下さい・・・・・・」
と咲は葵から顔を背けて途切れ途切れに一言だけ言って俺に抱きついてきた。俺は咲をしっかりと受け止め、抱きしめ返しながら「よしよし、怖かったな」と頭を撫でていると、後ろから、
「いいなー私でさえされたことないのに・・・・・・」
と葵らしからぬ声が聞こえてきたような気がするが聞いていないふりをする。それに、今の状況は傍から見たら、いや俺個人の視点から見ると中々カオスな状況なので話題を変えることにしよう。
「そういえば、葵。今日は何しに来たんだ?」
俺は葵が家に来ていることに気付いてからずっと気になっていたことを聞くことにした。
「今日は、シャワーを借りに来ただけだよ。浴びたら帰ろうと思ってたんだけど、お兄ちゃんが帰ってきたから・・・・・・」
「ん、そうか。で、時間とかは大丈夫か?」
俺はテレビの後ろの壁にかけてある時計を見ながら葵に聞いてみる。それを聞いて葵はエッ!と言いながら俺が見ている時計を見る。時刻は既に8時半を今にも過ぎようとしていた。
「ゲッ!やば・・・早くいえに帰らなきゃ!!」
と慌てて帰る支度を始める。
そして支度が終わり、家を出ようと葵がドアノブに手をかけた時に、
「葵、ちょっと待って。途中まで送っていくよ」
俺は葵を引き止めながら、近くに脱いでそのままにしていたコートに手を伸ばした時、玄関の方から、
「ううん、今夜は咲ちゃんといてあげて、私は大丈夫だから」
ん、そうか、よく意味は分からんが――ここは、葵に甘えさせてもらうとするか・・・・・・。
「そうか、じゃあ、気をつけて帰れよ」
俺がそう言うと、
「じゃあね、咲ちゃん、お兄ちゃん♡」
ん、何故か俺の時だけハートが付いていなかったか?まあ、いつもの事だけど。
「おう、気をつけてな」
「またね・・・・・・です」
その2人の言葉を背に聞きながら葵は家を出た。

少し歩いて優羽のアパートから離れた道で葵は立ち止まって、
「お兄ちゃんに娘か・・・・・・でも、咲ちゃん、可愛かったなぁ・・・・・・ふふ」
そう言ってまた歩き出した。その時の夜空は葵の心情を写したかのように晴天で星がキラキラと瞬いていた。
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