契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】


私が勤める閂建設株式会社では、数ヵ月前から男性社員の間で、あるウワサが流れている。

それは『瀬那と付き合うとダメになる』というもの。

とはいっても、建築業界一の業績と規模、歴史を誇る閂建設は全国に一万人以上の従業員を抱え、本社だけでも約四千人が働いているので、社内の全男性社員に広まることは不可能。

本社は都心にある地上五十二階、地下二階建ての鉄骨造の自社ビルをかまえている。百年建築を目指して造られているだけあって、スマートなフォルムながらもレンガ調の外壁で重厚感がある。

駅からのアクセスが徒歩五分と便利で、四十五階に従業員のカフェテリアがあり、五十二階には一般の人も入れる少しお高いレストラン、地下にはカジュアルなレストランやショップが併設されているので、ランチなどにも困らない。

さらに二階から五階にはクリニックや金融機関が入っている複合ビルなので、昼休みに用事を済ませることもできる。

六階から二十九階まではほかの企業が入っていて、残りの階は閂建設が使っている。

多くの人が出入りするので一階にはインフォメーションがあり、エレベーターもオフィス用と店舗用、飲食店用に分かれている。

そんな会社で、私は設計部設備課の照明部門に入社して五年目。女性が少ない職場だけど、楽しく働いている。

「瀬那さん、すごい宣言しましたね」

設計部がある三十五階でエレベーターを降りると、広瀬くんが声を弾ませた。

「広瀬くんのせいだよ……人の不幸を楽しそうに見てるから」

誰が流したのか知らないけど、社内のいたるところでウワサされて、これでも結構ヘコんでいる。こっちの気持ちも察してほしい。

先輩への思いやりに欠ける広瀬くんには、入社したときから手を焼いていた。

現場での作業にヘルメットや安全靴を忘れるのは毎度のことで、雨が降ってきても図面を広げたままだったり、給電できる場所がないのに照明器具をとりつけようとしたり……。今も、たまにとんでもない設計をやらかすから目が離せない。

最近はTPOをわきまえて、今日みたいに会議があるときはジャケットを着るようになったけど、以前はTシャツやらニットばかりで打ち合わせや会議があるたびに、作業着を羽織らせてごまかしたものだ。

「でも、ああいうのはハッキリ言っておいて正解ですよ。そしたら、瀬那さんと一緒に仕事する人は〝ああ……自分は恋愛対象外なんだ、ダメにされないんだ〟って思えて楽に仕事できますし」
「そんなものかなぁ……?」

アイドルみたいなカッコかわいい外見で笑顔を見せられると、つい納得してしまう。

まぁ、ヤンチャな弟にしか見えないけど。


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