契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】
設計部のドアの前まで来ると、首からかけていたIDカードをかざして、ロックを解除した。
オフィスに入ると、ドアの近くに置かれたスケジュール管理用のホワイトボードから自分と広瀬くんの名前の欄を探す。
「で、あのウワサは本当なんですか?」
「本当……ではないところもあるよ。作業員の人は、下請けじゃなくて孫請けだし。しかも、付き合ってなくて、告白されただけだからね。本人はもともと辞めるつもりだったみたいだよ」
私に告白してきたのは、現場で配線工事を担当していた男性だった。
フッたあと、数日後に『退職した』と後任の担当者から言われたので詳しくたずねると、前から上司に退職届を出していたそうだ。
だから、作業員の退職に関しては、私のサゲマン記録には含まれない。
ふたりの名前欄に貼られていた〝会議中〟のマグネットを取ると、席へと歩きだす。その後ろを広瀬くんが小声で質問しながらついてきた。
「じゃあ……ほかは正しいんですか?」
「そ……それもほら、いろいろあったの。もう、他の人にウワサされて傷ついてるんだから放っておいてよ……」
あまり言いたくないけど、ほかの二人は心当たりがある。
最近まで付き合っていたのは広報部の武村さん。
始めは仕事がデキる人だったのに、私があれやこれやと身の回りの世話をしてあげているうちに、自分は偉いと思い込むようになったのか、会社でも横柄な態度をとるようになった。それで上司と揉めて退職した。
彼が無職になってからもしばらく付き合っていたけど、『働かないの?』と聞いてばかりいると、キレられてフラれてしまった。
その前の彼氏は友達の紹介で知り合った、車の営業マン。
デートはいつも私の家でいつの間にか入り浸るようになり、そのまま同棲開始。家賃も食費も、すべて私が支払っていたのでお金に困ることはなく、せっかく成績優秀だったのに働かなくなってしまった。
次第に私が仕事で家にいない時間を、パチンコでつぶすようになった。お金はもちろん私。
頼られると甘やかしてしまう性格なので、一万、二万と渡していたら、ある日とんでもない金額を要求された。さすがに『無理』だと断ると、あっさり出ていってしまった。
やっぱり私が原因で彼らをダメにしちゃったのかなぁ……。
困っている人がいると、つい助けてしまう。
ひとつ下の双子の妹たちのこともつい世話を焼きすぎてしまい「お母さんよりお母さんみたい」とよく言われた。