噂の年下男
ゴーグルを引きちぎられた慎ちゃんは、ぽかーんとして松原多恵を見ていて。
隣でたーくんが息を飲んだ。
「し……酙(シン)」
その声に、あたしの頭は真っ白になる。
何をどう動けばいいのか分からなかった。
どうしたら、蒼からたーくんを守れるのか分からなかった。
ただ、何も出来ないあたしは、突っ立ってこの悲劇を見るだけ。
一斉に注目を浴びた慎ちゃんは、慌てて顔に手を当てる。
そして、ゴーグルとフェイスマスクがないことを知り、青ざめる。
「うそ……酙?」
「ぜってー酙だよ」
人々は混乱を始めた。
その中で、あたしはさらに混乱していた。
この時にたーくんを無理矢理引っぱって逃げれば良かったのだろう。
今となってはそう思う。
だけど……
パニックを起こしたあたしには、それが出来なかった。