強引社長に捕獲されました!?
「…………ず」

「ゆず」


透さんの声がする。


「ゆず、起きろっ」

「……んん?」
「終わったぞ。緊張してたわりには爆睡だな」
「あっ!?私、寝て……」

透さんに起こされて飛び起きると、目の前の鏡の中には知らない女の子がーー。

「…………誰?」

「いつまで寝惚けてるんだよ」
「え?」
「お前、凄く綺麗」
「……っ」

これ、ほんとに私?

サラサラの髪の毛に、お姫様みたいな緩いウェーブ。
いつの間にかメイクを施された肌には艶があって、睫毛も長いし唇はぷるぷるしている。

「信じられない……」
「ゆず、これ着て」
「えっ?」

透さんがバサッと広げたのは、先ほど買ったばかりの淡いピンクのカクテルドレス。
いつの間にか透さんもスーツに着替えていた。

「今夜、外資系企業のパーティーがある。早速だけど俺の側にいてほしい」
「え?……ぇえ!?」

側にいるって、そういうこと!?

「そんなっ、パーティーなんて無理ですよ!」
「俺のパートナーとして来て、一緒にいればいいだけだよ?」
「だけって!社長として行くんですよね!?」
「そうだけど?」
「私なんて目の上のたんこぶみたいなもんじゃないですか!」
「ぷっ!スゲー例え」
「五千万円どころかマイナス億円の負債ですよ!」
「はははっ!会社潰れるなぁ」
「笑うとこじゃなくて……」

やっぱり社長の時とは別人みたい。
ケラケラとお腹を抱えて大笑いしだした透さんに呆れていると、彼は急に優しい笑顔を見せた。

「大丈夫。なにかあったら俺が助けるから」
「……っ」

透さん、自分がなにを言っているのか、わかっているのかな?
そんなふうに微笑まれたら、断れるわけないよ。
気づくといつの間にか強引にことが進んでいて、ノーと言ってもイエスと言わされてしまう。

ーー敏腕社長?


……んーん、違う。
透さんの、魅力かな。


「私……、マナーなんてわかりませんよ?」
「知ってる。貧乏人だもんな」
「……英語も話せません」
「いいよ」
「もし私が転んだら?」
「転ぶ前に支えてあげる」
「恥をかくようなこと、しちゃうかもしれません」
「かまわないよ」
「……笑われるかも」
「そんなの社長パワーでふっ飛ばすし」
「えぇ?……もうっ、勝手なんだから」

ほんと、強引な人。

「じゃあ、昨日みたいに、ちゃんと助けてくださいね?」
「……っ」

でも、凄く優しいの。

だから私は、あなたの側にいて、あなただけを信じようと思う。



心の中に生まれた、甘くてちょっとほろ苦い、この気持ちはなんだろう。
なんだかくすぐったくって、笑いが込み上げる。

「いきなりその笑顔は、……っ」
「?」

クスクスと笑う私から顔を背けた透さんの頬は、気のせいか赤く染まっていた。
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