強引社長に捕獲されました!?
私がアルバイトを終えて帰ろうとしていると、激しい怒声が聞こえてきた。
「あのバカはなにを考えているんだ!」
「会長っ、落ち着いてください」
「いつの間に根回しを……っ」
会長……?
透さんと佐竹さんが言ってた人かな。
気になってよく見てみると、驚くほど男前な中年の人だった。
でも物凄く怒っている様子で、透さんと別れる前のことを思い出す。
無性に胸がざわついて、引き寄せられるように裏庭へ向かった。
「透さん、大丈夫かな……?」
初めて会ったあの場所へ行くと、透さんが煙草を吸っていた。
怒っているようだけれど、凄く悲しんでいるようにも見える横顔に、声をかけることができない。
どうしようか悩んでいると、不意に優しく肩を叩かれた。
「奥様」
「佐竹さん!……なにか、あったんですか?」
「……そうですね、いずれ知る時がくるでしょうし」
「なにを……?」
「私はサポートしかできません。社長に寄り添えるのは奥様でしょうから」
「そんなっ……。でも支えたい、です」
佐竹さんは微笑んで、それからすぐに表情を堅くした。
「……取締役会で会長が代表取締役の座を解任されました」
「?」
「これから会長がどう動くかにもよりますが、株主総会は避けたいと考えておりまして……」
「あの、それはなにか大変なことなんですか?」
「会長は、社長の……」
ーー透さん、遅いな。
もう間もなく日付が変わる時間だというのに、まだ帰らない透さんに不安は募る一方だった。
どうしても聞きたくて、透さんが心配で、とても眠れない。
カチャリと音がして静かにドアの開く音がすると、私は勢いよく飛び出した。
「透さんっ!」
「うお、びっくりした」
「お父さんのこと、クビにしちゃったんですか!?」
「……は?」
「佐竹さんから聞いて……」
「あのやろ、なんでゆずに」
「私も知る必要があるって」
奥さんだから、かな。
最後に、私も知るべきだと佐竹さんは言っていた。
難しいことはわからないけれど、少しでも彼のためになるなら……。
支えることができるなら。
透さんは心なしか力なさげにソファへ腰を下ろして、そのまま考え込んでいるようだった。
「……」
「透さん?」
「今日の取締役会では代表権のみ解除。ただの取締役になっただけ」
「?」
「最終的には辞任してもらいたいんだけど」
「どっ、どうしてそこまで……?」
「あの人は金儲けしか考えてないんだよね」
「……お金」
「俺は違う…………」
透さんはそれ以上、なにも言わなかった。
大切な、彼の信念があるのかもしれない。
「透さん、大丈夫ですか?」
「ねぇ、ゆず。俺のこと嫌いになってもいいから、……側にいて」
「もちろんです。約束したじゃないですか」
「……うん」
寂しそうに微笑む彼の隣に座り、膝に手をのせる。
私に特別なことができるなんて思わない。
ただ今は寄り添えれば良かった。
「……本当に猫って、ほっとくと膝に飛び乗ってくるんだな」
「もうっ、飛び乗ってないです。それに猫じゃない」
「ごめん。……ゆずがいて良かった」
こんなに悲しい夜は初めてで、私はひたすら透さんを抱き締めた。
「あのバカはなにを考えているんだ!」
「会長っ、落ち着いてください」
「いつの間に根回しを……っ」
会長……?
透さんと佐竹さんが言ってた人かな。
気になってよく見てみると、驚くほど男前な中年の人だった。
でも物凄く怒っている様子で、透さんと別れる前のことを思い出す。
無性に胸がざわついて、引き寄せられるように裏庭へ向かった。
「透さん、大丈夫かな……?」
初めて会ったあの場所へ行くと、透さんが煙草を吸っていた。
怒っているようだけれど、凄く悲しんでいるようにも見える横顔に、声をかけることができない。
どうしようか悩んでいると、不意に優しく肩を叩かれた。
「奥様」
「佐竹さん!……なにか、あったんですか?」
「……そうですね、いずれ知る時がくるでしょうし」
「なにを……?」
「私はサポートしかできません。社長に寄り添えるのは奥様でしょうから」
「そんなっ……。でも支えたい、です」
佐竹さんは微笑んで、それからすぐに表情を堅くした。
「……取締役会で会長が代表取締役の座を解任されました」
「?」
「これから会長がどう動くかにもよりますが、株主総会は避けたいと考えておりまして……」
「あの、それはなにか大変なことなんですか?」
「会長は、社長の……」
ーー透さん、遅いな。
もう間もなく日付が変わる時間だというのに、まだ帰らない透さんに不安は募る一方だった。
どうしても聞きたくて、透さんが心配で、とても眠れない。
カチャリと音がして静かにドアの開く音がすると、私は勢いよく飛び出した。
「透さんっ!」
「うお、びっくりした」
「お父さんのこと、クビにしちゃったんですか!?」
「……は?」
「佐竹さんから聞いて……」
「あのやろ、なんでゆずに」
「私も知る必要があるって」
奥さんだから、かな。
最後に、私も知るべきだと佐竹さんは言っていた。
難しいことはわからないけれど、少しでも彼のためになるなら……。
支えることができるなら。
透さんは心なしか力なさげにソファへ腰を下ろして、そのまま考え込んでいるようだった。
「……」
「透さん?」
「今日の取締役会では代表権のみ解除。ただの取締役になっただけ」
「?」
「最終的には辞任してもらいたいんだけど」
「どっ、どうしてそこまで……?」
「あの人は金儲けしか考えてないんだよね」
「……お金」
「俺は違う…………」
透さんはそれ以上、なにも言わなかった。
大切な、彼の信念があるのかもしれない。
「透さん、大丈夫ですか?」
「ねぇ、ゆず。俺のこと嫌いになってもいいから、……側にいて」
「もちろんです。約束したじゃないですか」
「……うん」
寂しそうに微笑む彼の隣に座り、膝に手をのせる。
私に特別なことができるなんて思わない。
ただ今は寄り添えれば良かった。
「……本当に猫って、ほっとくと膝に飛び乗ってくるんだな」
「もうっ、飛び乗ってないです。それに猫じゃない」
「ごめん。……ゆずがいて良かった」
こんなに悲しい夜は初めてで、私はひたすら透さんを抱き締めた。