強引社長に捕獲されました!?
翌日、アルバイトに出勤すると数人の男の人達に呼び止められた。
そのまま会議室のような場所へ連れ込まれる。
一瞬の出来事で気が動転して、抵抗もできずにいると冷たく低い声が響いた。
「手荒な真似をして悪かった」
「あなたは……っ!」
会長で、透さんの、お父さん……。
厳格な佇まいにのみ込まれそうになる。
私はゴクリと唾をのんだ。
「君は透と結婚したそうだね?」
「えっ、と、……はい」
「彼女から聞いて驚いたよ。見合いをさせる予定だったのだが」
「あ……」
会長の隣にいたのは、昨日怒らせてしまった女性社員。
私を見下すようにほくそ笑んでいだ。
「彼女の父は私の傘下の会社の代表でね。……勝手なことをされると困るんだ」
「それはお金のため、ですか?」
「利益のためだ」
この人、本当に透さんのお父さんなんだよね。
人をお金儲けの道具のように思っているのだろうか。
透さんが見ている世界とは、違う気がする。
「あの……、透さんは、お金のために社長でいるんじゃないですよ」
私が恐れながらも意見すると会長は笑い出した。
「じゃあ君はなんだ?」
「え?」
「金が欲しくて媚びているんだろう?」
「そんなわけっ」
「透が借金を肩代わりしたそうじゃないか」
「……っ」
確かに始まりはお金だったけれど。
私達は、お互いを想いあって……。
「金をもらって夫婦ごっこか、笑わせる。利用しているのは君も同じだろう」
ーー私も、同じ……。
五千万円を助けてもらって、そのうえ不自由のない暮らしをして。
お金のためじゃないと思い込んでいただけ?
「まったく親子揃って鼻につく」
ーーーーえ?
「どういう……こと、ですか?」
親子って、私のお父さんのことを知っているの?
「透からなにも聞いていないのか?」
「……え?」
私の弱い頭ではわけがわからなくて、ドクドクと高鳴る鼓動と深く吸い込めない呼吸に、目の前が歪むようだった。
「十年前、君の父親は医療機器メーカーの会社を友人と起業したらしく、私に出資を求めてきた。
しかしこちらも大事な時でね、事業に魅力を感じたがそれ相応の条件を出させてもらった。
君の父親は条件をのめないと言い張り、私は出資を断ったという、それだけの話なのだが……。
透は事業の失敗を私のせいだと勘違いし、君を助け再建しようとした」
「透の気持ちは、全て同情だったんだよ」
「……っ」
「まだ間に合う。君さえいなくなれば、彼女の父親にも黙っていよう」
「え?」
「君の返答次第で、株主総会での代表取締役社長の解職も考えている」
株主総会?
確か佐竹さんが、避けたいと言っていた。
もしかして、透さんが会社を辞めさせられちゃう?
私の、せいで……。
私が言葉を失っていると、会長は恭しくペンを取りなにか書き出した。
「五千万なんて端金だ」
「なっ」
「これで手を引けば透も、君にこんな憐れな生活をさせてしまった父親も救われるんじゃないか?」
「……え」
差し出された一枚の紙切れには冷淡に漢数字が並んでいた。
昨晩の透さんの寂しそうな顔を思い出す。
……この人は間違ってる。
お金なんてもらっても、死んだ人は戻らない。
「お金なんかいらない!!」
大切な人は、守れない。
「私は、あなたたちを真実だとは思わない!」
「透がどうなってもいいのか?」
私は小切手をビリビリに破り捨て、会長と彼女を一瞥した。
「透さんの前からは消えます。ただし、透さんの邪魔はしないでください!」
私は足早に部屋を出て、桐谷コーポレーションを後にした。
「ーーっ」
止めようとしても、次々に涙が込み上げてきた。
私には帰る場所も、待っていてくれる人も、もういない。
「っ、透さん……」
行き場のない思いが頬を濡らした。
私、いつからこんなに弱くなったんだろう。
『俺の側にいて、俺だけを信じて』
側にいたいけれど、信じているけれど。
「ごめんなさい……」
私は、大切な人を、失った。
そのまま会議室のような場所へ連れ込まれる。
一瞬の出来事で気が動転して、抵抗もできずにいると冷たく低い声が響いた。
「手荒な真似をして悪かった」
「あなたは……っ!」
会長で、透さんの、お父さん……。
厳格な佇まいにのみ込まれそうになる。
私はゴクリと唾をのんだ。
「君は透と結婚したそうだね?」
「えっ、と、……はい」
「彼女から聞いて驚いたよ。見合いをさせる予定だったのだが」
「あ……」
会長の隣にいたのは、昨日怒らせてしまった女性社員。
私を見下すようにほくそ笑んでいだ。
「彼女の父は私の傘下の会社の代表でね。……勝手なことをされると困るんだ」
「それはお金のため、ですか?」
「利益のためだ」
この人、本当に透さんのお父さんなんだよね。
人をお金儲けの道具のように思っているのだろうか。
透さんが見ている世界とは、違う気がする。
「あの……、透さんは、お金のために社長でいるんじゃないですよ」
私が恐れながらも意見すると会長は笑い出した。
「じゃあ君はなんだ?」
「え?」
「金が欲しくて媚びているんだろう?」
「そんなわけっ」
「透が借金を肩代わりしたそうじゃないか」
「……っ」
確かに始まりはお金だったけれど。
私達は、お互いを想いあって……。
「金をもらって夫婦ごっこか、笑わせる。利用しているのは君も同じだろう」
ーー私も、同じ……。
五千万円を助けてもらって、そのうえ不自由のない暮らしをして。
お金のためじゃないと思い込んでいただけ?
「まったく親子揃って鼻につく」
ーーーーえ?
「どういう……こと、ですか?」
親子って、私のお父さんのことを知っているの?
「透からなにも聞いていないのか?」
「……え?」
私の弱い頭ではわけがわからなくて、ドクドクと高鳴る鼓動と深く吸い込めない呼吸に、目の前が歪むようだった。
「十年前、君の父親は医療機器メーカーの会社を友人と起業したらしく、私に出資を求めてきた。
しかしこちらも大事な時でね、事業に魅力を感じたがそれ相応の条件を出させてもらった。
君の父親は条件をのめないと言い張り、私は出資を断ったという、それだけの話なのだが……。
透は事業の失敗を私のせいだと勘違いし、君を助け再建しようとした」
「透の気持ちは、全て同情だったんだよ」
「……っ」
「まだ間に合う。君さえいなくなれば、彼女の父親にも黙っていよう」
「え?」
「君の返答次第で、株主総会での代表取締役社長の解職も考えている」
株主総会?
確か佐竹さんが、避けたいと言っていた。
もしかして、透さんが会社を辞めさせられちゃう?
私の、せいで……。
私が言葉を失っていると、会長は恭しくペンを取りなにか書き出した。
「五千万なんて端金だ」
「なっ」
「これで手を引けば透も、君にこんな憐れな生活をさせてしまった父親も救われるんじゃないか?」
「……え」
差し出された一枚の紙切れには冷淡に漢数字が並んでいた。
昨晩の透さんの寂しそうな顔を思い出す。
……この人は間違ってる。
お金なんてもらっても、死んだ人は戻らない。
「お金なんかいらない!!」
大切な人は、守れない。
「私は、あなたたちを真実だとは思わない!」
「透がどうなってもいいのか?」
私は小切手をビリビリに破り捨て、会長と彼女を一瞥した。
「透さんの前からは消えます。ただし、透さんの邪魔はしないでください!」
私は足早に部屋を出て、桐谷コーポレーションを後にした。
「ーーっ」
止めようとしても、次々に涙が込み上げてきた。
私には帰る場所も、待っていてくれる人も、もういない。
「っ、透さん……」
行き場のない思いが頬を濡らした。
私、いつからこんなに弱くなったんだろう。
『俺の側にいて、俺だけを信じて』
側にいたいけれど、信じているけれど。
「ごめんなさい……」
私は、大切な人を、失った。