強引社長に捕獲されました!?
溢れる愛を誓いましょう
「ゆず……?」

複雑な顔をして走り去るゆずを見かけて、俺は胸騒ぎを覚えた。
追いかけようとして、会議室から出てきた親父と出くわす。
そこで、彼女は真実を知って去ったのだと告げられた。

「手を切るようにと私が小切手を差し出したら、アッサリと持って出ていったよ」
「なっ」

睨みつけると親父は勝ち誇ったように笑う。
どうやら代表から外しただけでは、金に腐った心は救えないらしい。

ゆずが真実を知ったのならば、俺を軽蔑しただろうか。
親父の背中を眺めながら考え込んでいると、佐竹に耳打ちをされた。

「社長、なにを呆けているんです?私には奥様が裏切るとは思えませんが」
「わっ、わかってるよ!」
「まずはプロジェクトを成功させていただかないと。話はそれからです」
「……はいはい」

俺は遠退く親父の背中に呼びかけた。

「会長、あなたも去る準備を」
「……なに?」
「株主総会で恥を晒すつもりですか?」
「なんだとっ!?」


「あなたの味方はもういない」


約三年懸けた事業が、もうすぐ実を結ぶーー。





「あーっ!ちょっとそこのお兄さん!」

彼女に出会ったのは三年前、社長に就任したばかりの頃だった。
その頃は社長といっても名ばかりで、実質会長の親父には逆らえない状態。
よくイライラして裏庭で一服していた。

「俺?」
「もう!煙草のポイ捨てなんて、恥ずかしくないんですか?」
「はぁ?」
「いくら立派なお仕事をしても、それでは人の役に立てません!」
「清掃員の君になにがわかるんだ?」
「あ、バカにしないでくださいっ!お掃除って心も綺麗になるんですから。ピカピカの会社ならやる気も出るでしょ?」
「……」
「私の仕事もきっと、誰かの役に立っています」

不揃いの前髪に可愛らしい笑顔。
見るからに幼い彼女に叱責されただけでなく、やるせなかった気持ちまで吹き飛ばされた。

それから若すぎる清掃員に不審を抱いた俺は、彼女を調べさせる。
十七歳だった彼女は、今どき高校にも通えずにうちの会社の清掃員とコンビニエンスストアのアルバイトを掛け持ちして働いていた。


「最近の社長は生き生きしていますね」
「んー」
「社長派も増えています」
「……そっか」

見かけるたび、一生懸命に床を磨く彼女こそ生き生きしていて、それが俺の活力になった。

キラキラしている彼女は、見かけとは裏腹に天涯孤独。
彼女の父親のことを知り、それに親父も関わっていたことを知ると申し訳なくて、せめて見守ろうと思った。
清掃員の時給を高くしたのも俺だ。

「佐竹、この医療機器メーカーの情報を集めてくれる?」
「かしこまりました」


やがて彼女の父親が成したかった事業は、俺に転機をもたらす。
信念は彼女が受け継いでいた。



最初は同情だったのかもしれない。

だけど気づけば、ただの片想い。
裏庭で、君に恋をした。
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