強引社長に捕獲されました!?
「うぅ、透さん……」

私は泣きながら、アルバイトをしていた居酒屋へ向かった。

「……店長、まだ昼間だしいるわけないよね」

私が一人ぼっちだった時、唯一の拠り所だった店長。
急に辞めてしまってごめんなさい。
心の中で謝り俯いた時、居酒屋の戸がガラガラと開いた。

「ゆずちゃん!?どうした?」
「……店長」
「なに泣いてんだ!?」
「っう、うわーん」
「ゆずちゃん、……とりあえず入りな」



お客さんの誰もいない店内へ私を招き入れると、店長は賄いを出してくれた。
優しい味が懐かしい。

「社長さんから話は聞いてたんだけど、また会えて嬉しいよ」
「突然辞めてごめんなさい」
「いや、まず借金が返せて良かった」

それが私と透さんを結んでくれたのに、まさか別れる原因になるなんて、不甲斐ない。
私、結局はなにも知らないんだな。

「店長は……、お父さんの会社のこと、なにか知ってますか?」
「ゆずちゃん……」
「友人と起業して、それからのこと」

借金返済を理由にして、私自身目を背けていた。
お父さんを悪く思ったりはしないけれど、やっぱり事業の失敗は汚点だと決めつけていたんだと思う。
ちゃんと、……向き合いたい。


「……良樹さんは、人の役に立ちたいという強い信念を持っていて、とても魅力的な人だった」

人の役に立つ、それはお父さんの口癖だった。
特別な仕事じゃなくても、素晴らしいことだよって。

「会社を起業し、桐谷コーポレーションに出資を求めた。でも今の会長は利益を優先して、傘下の医療機器子会社を使うという条件を出してきた」
「それだと、立ち上げた会社は……?」
「良樹さんだけを引き抜こうとしたんだ。頭の良い人だったから……。実質、良樹さんが核だったしね」
「お父さんは、どうしたんですか?」
「友人を見捨てられるわけがないって、拒否し続けたよ」

良かった……、私が大好きなお父さんだ。
ほっとして息を吐くと、店長は表情を曇らせる。

「でもあの会長もなかなか、欲しいと思ったら手に入れる人だから。あの手この手で経営の邪魔をした」
「そんな……」
「どんなに窮地でも良樹さんは揺らがず、人は金で買えないんだと、桐谷コーポレーションに喧嘩を売った。……俺も力不足だったんだ」
「え?」
「俺を守ろうとして、いつの間にか一人責任を背負っていた」
「……俺、って」

「ゆずちゃん、申し訳なかった」

涙ながらに頭を下げられ、切なくなる。
一緒に起業した友人って、店長だったんだ。
だからずっと私のことを……。

「ゆずちゃんのお母さん、身体が弱かっただろ?」
「はい。お母さんだけじゃなくて多くの人の助けになりたいからって、だから医療関係の……」
「あぁ。せめて良樹さんの思いは無駄にしまいと、あれから息子となんとか立て直してね」
「会社を?」
「まぁ、正直経営は苦しくて買収される形になったんだが、大手企業が手を貸してくれてね。なんとか形になりそうだよ」
「そっか。良かった……」
「それがーー、あっ」

「え?」

店長が突然驚いたのと同時に、私の首にはリンッと鳴る鈴がついたリボンがふわりと撒かれた。
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