強引社長に捕獲されました!?
「さすがに、フラフラする」

いよいよ今日の夜、借金取りが来る。
遅延ナントカの分まで間に合わなかったけれど、頼んでみるしかない。
きっと少しなら待ってくれるよね……。



最近、寝不足と疲労で体調が悪い。
休みナシって結構つらいんだなぁーなんて、ぼうっとした頭で他人事のように考えていると、突然大声で怒鳴られた。

「おばさん!ここ、汚いわよ」
「あっ、すみません」
「私達と違って掃除に来てるんだからさ、ちゃんとしなさいよ」
「……すみません」

……噂の八つ当たりだ。
この女性社員は、仕事でミスをすると清掃員にあたると有名な人。
仕事仲間から聞いたところによると、捕まったらもうひたすら頭を下げるしかないらしい。

はぁ、今日は良いことなさそう。

「ちょっとおばさん!聞いてんの!?」
「……すみません」

私まだ二十歳なんだけど……。
まぁ、お化粧なんてしたことないし、髪はボサボサ、服もボロボロ。
おばさんに見えるのかな。
虚しくって俯いていると、目の前に人の気配がした。


「君は怒鳴りに来ているの?」


「きゃっ、社長!?」
「君はここにギャーギャー騒ぎに来ているわけじゃないよね?」
「っ、仕事に戻ります!」


ーーなにが起こったの?


「悪かったね。大丈夫?」
「……いえ、……ありがとう、ございます」

社長に、助けてもらっちゃった……。
私、話しかけられてる……。

「……君、顔色悪いんじゃない?」

社長が私の頬にスッと手を伸ばす。
冷たい指先が優しく触れると、私は思わず息をのんだ。

「大丈夫です!失礼します!」
「あ、ちょっと……」


ひょえぇぇぇ!!
私に触ったら汚れますからぁ!!


そそくさとその場を離れ、清掃用具室にこもり息を吐く。
びっくりした。
あんなカッコイイ顔が目の前にあったら倒れちゃうよ。
こんな清掃員のおばさんにも紳士的だなんて、素敵な人だなぁ。


ーーぐぅ。

「あ」

ここ一ヶ月、一日一食なもので私のお腹は鳴きまくっている。

「今のゆずちゃん?」
「あはは。ダイエット中なんです」
「細いのに……。おばちゃんのお腹見てごらん!」
「えー、ははは」

社長の前で鳴らなくて良かった……。
周りにはダイエットで言い張っているけれど、こんな生活いつまで続くんだろう。


いつかお腹いっぱいご飯を食べたいな。
そしていつか、あんな素敵な人と恋をしたりしてみたい。

なんて、ね。
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